AIの定義と歴史
まず、AIの定義ですが、ざっくり言うと「コンピューター空間で人間の脳をどう作るか」という、統計学に近い領域です。人間が経験や情報をもとに次の行動を予測するように、AIも大量のデータから「このインプットの場合はこのアウトプット」という関係を学習し、それらしい結果を出力するモデルです。

その具体例がニューラルネットワークで、これは人間の脳のニューロンを模したモデルです。人工知能という言葉の由来にも近いですが、人間の脳構造を模倣することで精度が向上することがわかり、人工知能の研究が進みました。

学習とは何かというと、例えば手書き文字認識タスクの場合、手書き文字とそれがどの数字であるかという正解(ラベル)のデータを大量に与えて学習させます。すると、モデルが手書きの「0」が入力された際に、デジタルの「0」を出力できるようになります。モデルとは、ニューラルネットワークの様々な層が重なったものだと想像してください。

AIの定義として、機械学習、深層学習、生成AI、LLMなど様々な単語を耳にするかと思いますが、これらは下図のように入れ子構造になっています。
- AI:最も広い概念で、人間らしい知能や脳をコンピューターで表現したもの。
- 機械学習:AIの一部で、線形回帰のようなモデルも含む。
- 深層学習:機械学習の一部で、ニューロンを多数積み重ねたモデル。
- 生成AI:深層学習の一部で、新しいデータを生成するAI。音声、画像、自然言語などがある。
- LLM(大規模言語モデル):生成AIの一部で、自然言語生成に特化したモデル。

AIの最新トレンド:2025年以降の動向
AIの歴史と社会実装の現状を踏まえ、2025年以降に特に注目すべきトレンドを私の所感も含めてお話しします。
AIエージェントの時代
AIエージェントは、特定のタスクを深く実行できる次世代の技術として注目されています。
情報収集、データ探索、次のプロセス判断などを自律的に行い、目的に向かって実行するシステムです。
最近AIエージェントの案件は増えていますが、実用化にはまだ課題もあります。
AIエージェント開発のフロー
- 実際の業務プロセス(インプット、アウトプット、中間プロセス、使用データ)を正確に詳細に理解する。
- AIで自動化できそうな業務を選定し、AIエージェント化を進める。
- AIエージェントのアーキテクチャ(使用ツール、デザインパターン)を設計する。
最も重要なのは、AIエージェントの精度改善ループを回すことです。どこで精度が悪くなっているかを評価できるプラットフォームを事前に構築し、運用しながら改善していくことで、実用化につながります。
様々なエコシステムも盛り上がっており、2025年はまさにエージェント元年と言えるでしょう。


ロボットへの応用
ここ半年の間に、ロボット技術とAIの融合が革新的な進展を遂げており、これまで想像もできなかったような応用が次々と実現されています。様々な研究機関や企業が、高度な知能を持つロボットシステムの開発に成功を収めています。
特に注目すべき例として、洗濯物を畳むといったタスクが挙げられます。この作業は、物体の柔軟な形状認識や繊細な動作制御が必要とされ、これまで多くのベンチャー企業が挑戦を重ねてきましたが、技術的な壁に阻まれ、実用化には至りませんでした。
しかし、画期的な進展として、GoogleからスピンアウトしたPhysical Intelligence社が、この複雑なタスクを可能にする革新的なオープンソースソフトウェア「π0」を公開しました。同社が公開した実証動画は、ロボット工学界に大きな衝撃を与え、新たな技術革新の可能性を示しています。
これは、自然言語の基盤モデルが汎用的なタスクをこなせるようになってきたように、ロボット分野でも汎用的な知能が開発されてきたことを示しています。
AI研究者、ロボット研究者の間で話題となっており、多くの大企業が子会社を設立して参入したり、孫正義氏が投資を表明したり、中国ではヒューマノイドロボットの開発が盛んになったりと、非常に盛り上がっている領域です。
ロボット基盤モデルの登場により、自然言語処理におけるChatGPTのように、大量のデータを学習させることで、ロボットも汎用的なタスクをエンドツーエンドで実行できるようになり、数年で社会実装が進むと期待されています。

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