Anthropicが2025年10月に発表した新機能「Claude Skills」は、従来のチャットAIを超え、組織の業務プロセスを支援する「カスタムAIモジュール」の提供を目指している。Excelの数式処理やプレゼン資料作成といった専門作業を自動化し、効率化するための仕組みだ。本記事では、Skillsの仕組みや導入メリット、ChatGPTのCustom GPTsやGemini Gemsとの違いを解説する。
参考：anthropic Introducing Agent Skills
https://www.anthropic.com/news/skills#:~:text=Claude%20can%20now%20use%20Skills,Claude%20can%20load%20when%20needed
2025年10月、AnthropicはAIアシスタントClaudeに新機能「Skills」を追加した。Skillsはフォルダ構造の中に「指示書・スクリプト・参考資料」を格納し、必要に応じてClaudeが自動で読み込む仕組みだ。Excelでの集計やブランドガイドラインに沿ったプレゼン資料作成、契約レビュー支援など、特定業務に特化したワークフローをパッケージ化できる。
Anthropicによる公式説明では、Skillsは以下の特長を持つ。
Skillsの実体は「指示書・スクリプト・リソースが入ったフォルダ」であり、タスクに応じてこれらを読み込むことで、従来よりも迅速かつ正確にこなすことが可能になる。
SkillsはPro・Max・Team・Enterpriseユーザー向けに提供され、BoxやRakuten、Canvaなどの企業がすでに試用しているという。
Skillsは、従来のRAG（Retrieval Augmented Generation）や単発プロンプトとは異なる「プログレッシブディスクロージャー」のアプローチを採用している。ClaudeはまずSkill名と概要のみを参照し、タスクが必要になったタイミングで具体的なファイルやコードを読み込む。この方式により、巨大な知識ベースを持つSkillでも高速に反応し、必要な情報だけを使う効率的な実行が可能になる。
Skillはこのようなフォルダで構成されており、Claudeはタスクに応じて適切なスクリプトや資料を読み込む。
Skillsは、Claude AIアプリ、Claude Code、AnthropicのAPI、Claude Agent SDKといった複数のプラットフォームで共通形式で動作する。一度作成したスキルをあらゆる環境で再利用できるため、チーム全体の作業効率を向上させることができる。
非技術者向けには「skill-creator」というスキルが用意されており、作業内容をヒアリングしてフォルダ構造やSKILL.mdを自動生成する。開発者向けには、新しい /v1/skills エンドポイントやGUIベースのClaude Consoleからスキル管理とバージョン管理が可能だ。
Skillsの最大のメリットは、組織固有の業務知識をモジュール化できる点にある。ステップバイステップの手順やコードテンプレート、ブランドガイドライン、コンプライアンスチェックリストなどを一つのSkillに含めることができるため、従来のプロンプトエンジニアリングで悩んでいた「属人化」を解消する。複数のスキルを同時に読み込んで投資家向け資料を生成するなど、複雑なワークフローにも対応できる。
早期導入企業からは生産性向上の報告が出ている。日本の楽天では管理会計・財務のワークフローにSkillsを導入し、複数のスプレッドシートを処理して異常値を検出し、決算レポートを作成している。これにより、一日かかっていた業務が1時間で完了するようになり、8倍の生産性向上を実現したと言われる。
Canvaは、自社のブランドガイドを反映したデザイン作成を自動化するスキルを計画しており、チーム独自の文脈を取り込みながら高品質な資料を作成できると期待している。また、Boxでは保存されたドキュメントからPowerPoint、Excel、Wordファイルを自動生成するスキルを開発中で、数時間の作業を短縮している。
参考：Venturebeat Early customers report 8x productivity gains on finance workflows
https://venturebeat.com/ai/how-anthropics-skills-make-claude-faster-cheaper-and-more-consistent-for#:~:text=Early%20customers%20report%208x%20productivity,gains%20on%20finance%20workflows
Skillsはコード実行を伴うため、運用にはガバナンスが必要だ。Anthropicは管理者向けにスキル使用を有効・無効化する機能と利用ログを提供し、利用者は組織設定後に個別に参加する二段階のオプトインが必要だと説明している。また、Anthropicは「信頼できるスキルを使う」ことを推奨し、スキルの出所と内容の検証が重要であると指摘している。
Skillsは、OpenAIのCustom GPTsやGoogleのGemini Gemsといった他社のカスタムAI機能とどう違うのか。以下では、それぞれの特徴を短く整理する。
| 比較項目 | Claude Skills | OpenAI Custom GPTs | Gemini Gems |
|---|---|---|---|
| ワークフロー特化度 | 高い。フォルダ構造に手順・コード・資料を含める | 中。カスタムプロンプトと参考情報で専門GPTを構築 | 中。カスタムGemに指示や資料を組み込み専門化 |
| モジュール／ファイル構造 | あり。指示書・スクリプト・リソースをフォルダに格納 | なし。設定画面とアップロード資料のみ | なし。メタデータと添付ファイル中心 |
| 自動読み込み・適用 | あり。タスクに応じてSkillを自動で読み込む | なし。タスクに応じてGPTsを呼びだす必要がある | なし。タスクに応じてGemを呼びだす必要がある |
| コード実行機能 | あり。スクリプト実行に対応 | 一部ツール実行（ブラウザ・コード） | なし。Gemは生成型出力中心 |
| 組織での共有・管理 | 組織単位で共有しバージョン管理 | GPTストアに公開し共有可能だが共同編集不可 | Google Drive経由でGemを共有し、ユーザーが編集やコピー可能 |
| 提供プラン | Claude Pro/Max/Team/Enterprise | ChatGPT Plus/Team/Enterprise | Google Workspace契約＋Geminiプラン |
Skillsの特徴は、企業向けのワークフローに特化していることだろう。カスタム指示を構造化して保持し、AIアシスタントがタスクに応じて柔軟に使い分けることが可能になっている。ただし、AIの進歩は日進月歩であり、他のAIアシスタントが先行して実装した機能はいずれ他社も追随して実装する可能性があることは留意しておくべきだろう。
Claude Skillsは、AIアシスタントが単なるチャットから「エージェント」へ進化する象徴的な機能だ。フォルダ構造に手順やコードをまとめることで、企業固有の業務知識を再利用しやすくし、複数のスキルを自動で組み合わせて高度な作業を遂行する。早期導入企業では大幅な生産性向上が報告されており、特に財務報告やデザイン作業の効率化が顕著だ。
一方で、Custom GPTsやGemini Gemsなど競合も急速に進化している。OpenAIはAgentKitを発表し、企業向けのエージェント開発ツールを提供し始めた。GoogleはGemを共有可能にし、チームでAIアシスタントを協調利用できる仕組みを導入した。こうした競争の中、Skillsがどこまで普及し、どのようなエコシステムを築くかは今後の注目点だ。