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AIエージェント元年を振り返る:4つの変化と、今後の展望

2025.12.28
AIエージェント元年を振り返る:4つの変化と、今後の展望

2025年は、「エージェント元年」とも呼ばれ、生成AIが「高性能チャットボット」から「現場で仕事をするエージェント」へと一気にシフトした年だったと言えます。これまでは“聞けば答えるチャットボット”が主流でしたが、今はタスクを分解して実行し、”完了まで自走するエージェント”として現場で活躍するようになっています。

また、テキスト以外のデータを取り扱うマルチモーダル性能が飛躍的に向上したことも特筆すべきポイントです。画像や動画といったコンテンツは、以前は破綻が多く実用的ではありませんでしたが、今や人間が作ったものと見分けがつかないほどに品質が高まってきています。皆さんも、SNSや動画投稿サイトを中心に、生成AIによって作られたコンテンツが溢れているのを実感しているかもしれません。

本稿では、2025年を象徴する4つの観点で振り返り、2026年の展望を整理したいと思います。

1. 2025年総括:4つの変化から見た「地殻変動」

2025年の生成AIを一言でまとめるなら、「便利な機能」から「社会の中で動く仕組み」へと、役割が変わった年でした。技術の進歩だけでなく、使われ方、ルール、そしてインフラまで含めて、生成AIの“居場所”が変わったことがポイントです。

1-1. 変化その①:言語モデルの進化の方向性──“賢さ競争”から“実用”へ

2025年以前、生成AI企業各社はモデルの規模(パラメータ数)や学習データ量を増やし、ベンチマークの成績を競い合う形で「賢さ」をアピールしてきました。実際、このアプローチは一定期間、目に見える性能向上をもたらし、「より大きいモデルほど高性能」という直感も成り立っていました。

しかし近年は、モデルを大きくしたことによる性能向上の幅が緩やかになってきていると言われています。計算資源や電力などのコストをかけても、改善の幅は小さくなりやすい。規模拡大だけで決定的な飛躍を起こすのが難しくなってきたということです。

同時に、独自機能による差別化も難しくなってきました。ある企業が新機能を実装して優位に立っても、競合が類似の機能を短期間で導入し、差がすぐに埋まってしまう。こうした「追随の高速化」が常態化し、機能の競争優位性が維持できるのは、ごく短期間だと言えます。

このような背景から、各社の差別化戦略は次の段階に移行しています。今後のカギは、資金力や技術力だけでは真似しにくい「独自の実用性」を持てるかどうかにかかっていると言えるでしょう。モデルの賢さを競うだけでなく、日々の作業の中で自然に使われ、継続的に価値を出せる形に落とし込めるかが問われる時代です。

分かりやすい例が、独自プラットフォームとの統合です。CopilotはMicrosoft 365と深く連携し、大企業でも導入しやすい導線を用意することで存在感を示しています。また、GeminiもGoogle Workspaceを中心にエコシステムと統合し、個人・法人を問わずシェアを拡大しています。このような統合の強みは、メールや文書作成、会議の準備といった日常の作業の中に溶け込んで、「AIを使おう」と意識しなくても、“気づいたらそこにあった”という状態を作れることです。「あるなら使ってみるか」という自然な流れが生まれること、それ自体が強みになります。

この種の実用性は、モデルや機能が同等でも簡単には再現できません。ツールの価値が、既存のユーザー基盤、業務データとの接続、権限管理やセキュリティ、運用サポートまで含めた“簡単に動かせない環境”と密接に繋がっているからです。2026年以降も言語モデルの進化は続きますが、競争の主戦場は「どれだけ賢いか」から「どれだけ現実に使われるか」へ、さらに明確に移っていくはずです。

1-2. 変化その②:ビジネス現場の距離感──“試用期間”から“正式採用”へ

ビジネス現場における生成AIとの距離感は、2025年に入って明確に変わり始めました。議論の中心が「導入するか否か」から、「導入したうえでどう活かすか」へと移っています。

以前は、導入に慎重な企業も少なくありませんでした。背景には、情報漏えい(入力データの扱い)運用不安(前例が少なく社内に詳しい人がいない)、活用イメージの不足(どの業務に効果があるか分からない)といった懸念があり、「様子見」も1つの正解だったのです。しかし、近年では先進的な企業の試験導入による効率化の事例が積み上がってきたことで、議論の中心は、「導入するか否か」から「導入した上でどう活かすか」へと変化しています。

象徴的なのは、生成AIが“先進的な未知のテクノロジー”ではなくなったことでしょう。メールや文書作成、会議準備、問い合わせ対応といった日常業務に浸透して、「標準的なITインフラ」へと変わってきているのです。

1-3. 変化その③:生成AIの主体性の変化──“チャットボット”から“エージェント”へ

2025年を象徴するキーワードのひとつが「AIエージェント」です。ここでいうエージェントとは、質問に答えるだけでなく、目的に向けて作業を分解し、必要に応じて検索やアプリ操作などのツールも使いながら、期待される成果物を作るために手を動かすAIを指します。

これまでの生成AIは、ユーザーからの質問や指示に対して、助言や提案を返す「チャットボット的な使い方」が中心でした。これも便利ではあるものの、実際に作業を進める部分は、結局は人間が行う必要がありました。ところが、AIエージェントは、人間が事細かに指示をしなくても、自ら作業計画を立て、必要な情報を調査して整理し、検討を調整を繰り返して成果物を提出するところまで一貫して進められるようになったのです。

ただし、ここで誤解してはいけないのは、エージェントが人間の代わりに“すべて”を引き受けるわけではない、という点です。AIは知識を広く参照し、たたき台を素早く作ったり、反復作業を粘り強く続けたりすることに強みがあります。一方で、「何を目指すのか」「その結論でよいのか」「誰が影響に責任を持つのか」といった判断は引き受けられません。現実的には、人間が目的と基準を握り、AIが実行と反復で支える、という役割分担が重要になります。

また、エージェント化は“頼もしさ”と同時に“リスク”も運んできます。AIが自動で操作できる範囲が広がるほど、与える権限も増え、誤操作や情報漏えい、悪用が起きたときの被害も大きくなり得ます。社会全体としては「AIは何ができるのか」だけでなく、「どこまで任せ、どこで人が止めるのか」を合意していくフェーズに入ったと言えるでしょう。

1-4. 変化その④:社会の評価──“新興ベンチャー”から“巨大産業”へ

生成AIが注目され始めた当初は、「人間のように会話ができる」こと自体が大きな驚きでした。話題性は十分でしたが、当時は多くの人にとって“発展途上の新技術”という位置づけで、社会全体を動かすほどの存在ではありませんでした。

ところが2025年は、マルチモーダルやエージェント化によって実用の幅が広がり、個人の利用に加えて企業の業務にも本格的に組み込まれ始めました。その結果、生成AIはスタートアップの新興分野という枠を越え、投資や雇用、設備投資まで伴う「巨大産業」として扱われるようになっています。

一方で、生成AIがもたらす社会的な影響は、好ましいものばかりではありません。たとえば、次のような課題があります。

  • 資源・インフラの課題:計算資源や電力、データセンターなど、物理的な資源には限りがあり、急増する需要に対して無限に拡張できるわけではありません。
  • 権利・ルールの課題:学習データや生成物をめぐって、著作権・商標・肖像権などの権利への配慮が求められています。権利者との合意形成や法制度の整備が課題です。
  • 悪用・セキュリティの課題:AIで生成した画像や動画による嘘の情報(ディープフェイク)の拡散や、AIへの不正な指示による誤動作を誘うサイバー攻撃(プロンプトインジェクション)も現実的な脅威になっています。
  • 人への影響の課題:AIに過度に依存することによる様々な悪影響(学習・仕事・健康面)も指摘されています。

これらの課題とどう向き合っていくか、も大きなテーマになるでしょう。


2. 2026年の展望:「デジタル」から「フィジカル」へ、「汎用」から「特化」へ

ここまでで整理したとおり、2025年は生成AIが「会話」から「仕事」へと役割を変えた一年でした。2026年でも引き続き、AIが代替できる仕事は増えていき、専門性も高まっていくと予想されます。

その方向性を端的に表すなら、次のように言えるでしょう。

  • 「デジタル」から「フィジカル」へ(画面の中の作業から、現実の作業へ)
  • 「汎用」から「特化」へ(何でもできるモデル中心から、用途に最適化されたモデル群へ) という2つのシフトです。

2-1. 「デジタル」から「フィジカル」へ:現実世界に手を伸ばすAI

これまでのAIエージェントは、主にデジタル空間で価値を発揮してきました。調査、要約、資料作成、システム操作など、“画面の中”の作業であれば、AIはすでに人間の手間を大きく減らせる段階に入っています。

2026年以降はAIがロボットなどの機械に組み込まれ、物質世界の作業にも入り込んでいくと見られます。ただし、フィジカル領域の仕事でAIを実用化するには、これまで通りの「賢さ」だけでは足りません。現場で使うには、少なくとも次の3つが揃う必要があります。

  • 認識:カメラやセンサーで状況を把握し、何が起きているかを理解できること
  • 計画:安全に手順を組み立て、途中で状況が変わっても調整できること
  • 制御:実際に動かせるだけでなく、異常時に確実に止められること

これらの条件が揃いやすいのは、環境が整っていて手順が定型化された作業です。たとえば、製造ライン、倉庫・物流、検品・仕分け、清掃、配達・運送など、シンプルな作業を正確に行うことはAIとロボットの得意とするところです。一方で、例外対応が多く、判断が連続し、責任の重い現場では、すぐに置き換わるというより、人の判断を支える形で段階的に入り込む可能性が高いでしょう。

AIのフィジカル化が進むほど、行使できる権限や作業の影響範囲が増えていき、向き合わなければならないリスクも大きくなっていきます。「何を、どこまで任せるべきか」という安全設計は、一層重要になっていくでしょう。

2-2. 「汎用」から「特化」へ:モデル競争は“現場最適”に向かう

もうひとつの大きな流れが、「特化型AI」へのシフトです。これまでは、できるだけ汎用性の高い大規模モデルを育て、性能向上や新機能の追加で競争するアプローチが中心でした。

しかし、汎用モデルが大きくなるほど、コストや処理時間が増えるだけでなく、出力が表面的でそのままでは使えなかったり、現場のルールや目的に合わない“ブレ”が生じたりすることがあります。生成AIの回答が期待外れになりやすい大きな原因の1つは、汎用的な生成AIが現場や社内のローカルルールや前提知識を持っておらず、一般論に寄せてしまうことにあります。

特化型AIは、特定領域に必要十分な知識やルールに合わせて設計できるため、

  • 期待する出力の形式や基準を揃えやすい
  • 誤りが起きたときに原因を追いやすい
  • どこまで任せるか(線引き)を作りやすい といった利点があります。

たとえば、医療や金融のように使うべき用語や守るべきルールがはっきりしている領域では、汎用モデルの「それっぽい回答」には価値が見いだせないことが多いのです。用途や現場に合わせて学習させた専用AIであれば、これまで断念していた現場でも導入が検討できる可能性がでてきます。

2-3. 2つのシフトが意味すること:便利さの先に“設計”が必要になる

「フィジカル化」と「特化型」への転換は、どちらも生成AIが“使える場所”を押し広げる動きです。その一方で、AIが現場に踏み込むほど、誤作動や悪用、雇用問題などの影響も大きくなります。

このテーマは企業や行政だけの話ではありません。私たち一人ひとりが、AIの提案とどう向き合い、判断をどこに残し、何を守るのかを考える必要があります。次章では、こうした変化を踏まえて、AIとの向き合い方を整理します。


3. AIとの向き合い方:便利さの時代から、共存の時代へ

2025年、生成AIは「会話」ができるチャットボットから、「仕事」に取り組むエージェントとして振る舞うようになりました。そして来る2026年、延長線上には「デジタルからフィジカルへ」「汎用から特化へ」という可能性が広がっています。

この流れの中で重要になるのは、生成AIを“使いこなすコツ”を知ることだけではありません。AIが提案し、実行し、物質世界にも影響を及ぼすようになるとしたら、私たちに必要なのは、明確な基準のある線引きを持って向き合うことです。

ここでは、そのための「問い」を3つ提示します。

  • AIが生成した情報の”もっともらしさ”を、疑う目を持てますか?
    • 特化型AIの普及やマルチモーダルの成熟によって、AIの回答はより“もっともらしく”見えるようになります。情報の真偽だけでなく、意図権利の問題まで含めて確かめる姿勢が欠かせません。たとえば、AIによるリサーチや要約は、少ない手間で結論を得られるため非常に便利です。しかし、もしかすると要約の過程で重要な文脈が抜け落ちているかもしれません。あくまで責任を負うのは人間だということを、肝に銘じて向き合いましょう。
  • どこまで任せ、どこから自分がやりますか?
    • AIエージェントは、細かく指示をしなくても、計画を立て、手順を組み、作業を進め、結果を提出してくれるようになりました。やがてロボットとの統合が進めば、手作業も可能になるでしょう。すべて丸投げするだけで自分の仕事が完了するなら、こんなに楽なことはありません。しかし、「あなたの仕事」の主体はあくまで「あなた」です。エージェントが適切な作業を行うには適切な指示が必要ですし、作業を監督して間違いが起きそうであれば軌道修正してあげなければなりません。成果物をレビューして、より価値が高まるように修正を指示します。もしAIには難しい仕事があれば、そこから先は自分が巻き取る判断が必要でしょう。何でもやらせるのではなく、「どこまで任せられるか」というバランスを意識することが重要です。
  • AIとの距離感は適切ですか?
    • あくまで道具として扱う人、友人や恋人のように接する人、手放しで称賛する人、一方的に敵視する人。生成AIとの距離感は、十人十色で、どのような接し方、考え方も否定されるべきではありません。一方で、ビジネスマンやエンジニアとして実務で生成AIを活用するという目的に限っては、適切なバランス感覚というものが大事になります。「生成AIは嘘をつくから信用できない」など毛嫌いしていては機会損失になりますし、「生成AIが言っているから間違いないだろう」と過信すると思わぬ事故を招きます。特性を正しく理解し、適切に疑い、適切に任せることが重要です。

2026年は、AIの力がデジタルの外にも広がり、領域ごとに最適化され、社会に深く根づいていくと予想されます。だからこそ、使い方だけでなく、向き合い方を更新し続けることが、これからのスタンダードになるでしょう。

参考

公式発表・一次情報

ガバナンス・規制・標準

国内動向(統計・白書)