2016.12.01 Thu |
解析事例紹介2: バスケットボールプレイヤーの運動特性
今回は、バスケットボールの分野でのデータ解析の事例をご紹介しましょう。
バスケットボール競技において、エントリーした選手のうちだれをいつどの程度出場させるかが重要(らしい)です。この判断のもとになっている選手のパフォーマンス評価は、本来コーチの長年の勘と経験によって決められるものですが、よりシステマチックにできないかということで、重回帰分析を用いて、解析した事例をご紹介します。
出典は、
小林敬子・青山昌二(1995).競技データの統計分析的アプローチ-バスケットボールの場合。日本体育学会測定評価専門分科会機関紙 CIRCULAR, 56, 17-24
小林敬子・大門芳行・坂井和明・岸野洋久(1996). 二値モデルによる選手特性の対応分析ー経験に基づく判断とコンピュータによるデータ分析の接点(バスケットボールの場合).日本女子体育大学紀要,26,131-138.
です。
この研究では、コーチの評価がどのように行われているかを客観的に知るために、1996年の関東女子学生バスケットボールリーグにエントリーした17名の選手を対象として、コーチが各選手につけた、パフォーマンス得点が、どの選手特性から来るものなのかを、重回帰分析を用いて解析しています。
ちなみに、ここでのパフォーマンス得点は1~10の正の整数であり、誤差構造が正規分布にならなそうなので重回帰分析は適切な解析手法とは言えず、ポアソン回帰分析をやるべきと個人的には思いました。
この研究で行われた重回帰分析において、目的変数は、各選手に対する、監督からのパフォーマンス評価(1~10の整数)、説明変数はパフォーマンス評価を構成する要素としてコーチにより挙げられ、それぞれ、1~5の整数で、各選手をコーチが評価しました。
説明変数
1,スタミナ
2,パワー
3,スピード
4,けがの数
5,怪我への強さ
6,取り組み熱心さ
7,要領のよさ
8,リーダーシップ
9,接戦への強さ
10,本番への強さ
11,キャリアの有無
12,冷静さ
13,大試合への強さ
14,性格のまじめさ
15,忍耐力の有無
16,集中力の有無
17,シュート力
18,リバウンドへの強さ
19,正確なプレー
20,理解力
21,場面判断が的確
また、この説明変数間での相関係数の算出も行われました。
重回帰分析(と事後確率)の結果として、コーチは選手のパフォーマンス評価として、
・要領の良さ
・接戦への強さ
・キャリア(実績・経験)の有無
・スピード
を重要視しており、
・忍耐力がある
・性格がまじめ
・取り組みへの熱心さ
を軽視していることがわかりました。
相関分析の結果として
・性格がまじめ、であることは、
・本番への強さ
・要領の良さ
・接戦への強さ
・冷静さ
・大試合への強さ
と負の相関があることがわかりました。
・忍耐力がある
・性格がまじめ
・取り組みへの熱心さ
という特性が評価されず、
性格が不真面目であるほど
・本番への強さ
・要領の良さ
・接戦への強さ
・冷静さ
・大試合への強さ
が強いという結果は、残念ながら教育的ではないですが、今回のデータからはこのような結果が出たとのことです。
考察では、女子のバスケだからパワーよりスピードが重要になったのだろうと書かれています。
今回の研究では、あくまで特定のコーチ一人を解析したに過ぎなく、また、女子学生の1チームの解析に過ぎないことから、バスケットボール競技全体にいえる一般則は導きだせませんが、
「コーチによる選手のパフォーマンス評価の定量化」という課題設定としては、参考になると思います。
今スポーツの世界では、データを用いた選手のパフォーマンス評価が積極的に行われており、今回のようにコーチの主観的観測を説明変数にするのではなく、センサーデータからのデータを用いた解析が主流になっています。選手育成方法の最適化の観点からしても今後ますます発展していく分野と思います。
今日はここまで。
鈴木瑞人
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士課程1年
東京大学機械学習勉強会
NPO法人Bizjapan