2017.01.19 Thu |

Open Science(生命科学分野)1

openscience

オープンサイエンス(Open Science)という言葉をご存じでしょうか?
簡単に言うと、サイエンス(科学)をオープンにするということです。オープンにするということはどういうことかというと以下に挙げるように3つあります。

1, 科学研究の成果を一般の人がアクセスできるようにオープンにすること、
2, 科学研究を進める際一般の人やいろんな分野の研究者がかかわれるようにすること、
3, 科学研究で使用するデータをオープンにして、みんながアップロードしたり、使用できるようにすること、

です。
collaborate

さて、去年から”The Open Science Prize”というコンテストが開催されており、今日はそこに選出されているプロジェクトをご紹介したいと思います。
https://www.openscienceprize.org/
OpenScience2

ちなみに、このコンテストのスポンサーは、
イギリスのWelcomeTrust財団、
アメリカのNIH(イメージとしては日本でいう文科省と東大が合体した感じの組織)、
アメリカhhmi(Howard Hughes Medical Institute:アメリカの生命科学系分野で突出した研究者は大体ここから資金援助を受けている)
という、世界最高峰の生命科学系の研究資金の拠出元がスポンサーをしています。
2017年の3月上旬に優勝プロジェクトが決まるとのことです。現在6つのチームがエントリーしています。

このコンテストの目的は、” 人々の健康利益のための生命・医学研究の進歩とその応用のために、開かれたコンテンツとデータの力を開放する”ことだそうです。

それでは応募プロジェクトを一つずつ見ていきましょう。

1,Fruit Fly Brain Observatory(ショウジョウバエ脳観察プロジェクト)

FruitFlyBrainObservatoryhttp://fruitflybrain.org/
【プロジェクト内容】
まず、前提知識をいくつか並べますと、現在のヒトの脳科学は、僕の感覚ですと、ショウジョウバエ:3割、線虫:2割、マウス:3割、ヒト:1割、その他:1割、の実験結果から成り立っています。ヒトの精神疾患の原因解明の多くの手がかりはハエの遺伝子研究からもたらされたものです。

現在、遺伝子編集技術、顕微鏡技術、光遺伝学(Optogenetics)による神経細胞の活性制御
技術、ビックデータの解析技術、が著しく発達したことにより、さらにハエの脳を詳細に研究することができるようになりました。ハエの脳研究を加速させることで、ヒトのうつ病や統合失調症、アルツハイマー病、などの研究を進めましょう、というのがこのプロジェクトの概要です。

プロジェクト名にも”Observatory(観察)”とあることから、神経の活動観測と、ハエ特有の豊富な遺伝子研究toolを使用した遺伝子編集を結び付けた研究を行うのでしょう。

プロジェクトの主体は、アメリカの名門Columbia University、中国のトップである清華大学、イギリスの名門The University of Sheffieldであり、期待大です。プロジェクト概要は下記リンク先の動画でも解説されています。詳しく知りたい方は是非ご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=dZbkQuegivw&feature=youtu.be

 

2,Open Neuroimaging Laboratory(開かれた神経可視化研究室)

openneurosciencehttp://openneu.ro/start/

【プロジェクト内容】
脳画像データをみんなでシェアして、新しい発見を加速するプラットホームを作成するのがコアプロジェクトのようです。

確かに現状だと、脳の画像情報は、各論文にリンクが張られていたり、各研究室のホームページに保存されていたり、各プロジェクトごとに管理されていることが多く、それらを一カ所にまとめてくれたら便利ですね。

ただ、プロジェクト概要を読んで見た感じでは、データを持っている人がそのデータを再利用してもらうためのプラットホームという印象を受けます。どのくらいのデータが集まるかと、その利用しやすさが普及のカギでしょう。現在6000個のリンクを張っているそうです。

プロジェクトのホームページには、夜猿の脳、イルカの脳のデータプラットホームも用意しており、ユニークさを感じます。

BrainBoxというWebアプリで、脳画像の共有を簡単に行えるようにするようです。フランスのパスツール研究所、ドイツのマックスプランク研究所、アメリカのEyeWire株式会社という脳をMapするオープンイノベーションをもたらすゲームを開発している会社、MITのMcGovern研究所などの研究員によるプロジェクトです。ぜひともお友達になりたい方々です。彼らと友達になれれば人生が豊かになること間違いないでしょう。

プロジェクトについての詳細は下記リンクからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=HXLrvyU5QGQ&feature=youtu.be

 

3,MyGene2~劇的にopenデータをシェアすることで、遺伝子発見を加速する~

mygene2https://mygene2.org/MyGene2/

【プロジェクト内容】
簡単にいうと、まれな遺伝子疾患を持つ人が遺伝情報をシェアするプラットホーム(website)です。遺伝情報を調べることですら反対や懸念の声があってなかなか進まない日本とは大きな違いです。日本という枠組みにとらわれず国際的な枠組みでやってしまえば、案外うまくいくのかもしれませんね。コンテストのwebsiteに載っているプロジェクト概要の説明がよかったので和訳しますと、

”世界中で約3億5千万人、3,000万人以上のアメリカ人がまれな疾患を持っています。ほとんどのまれな疾患はメンデル条件であり(優性遺伝など)、これは単一の遺伝子における突然変異が疾患を引き起こすことを意味します。現在7,000以上のメンデル条件が知られていますが、原因遺伝子は半分しか知られていません。その結果、臨床試験を受けている家族の70%近くが診断に欠けています。MyGene2はメンデル条件付きの家族が健康や遺伝情報を世界中の家族、臨床医、研究者と共有するためのサイトです。”

要するに、まれな疾患を患っている家系で明らかに優性遺伝・劣性遺伝で、単一の遺伝子変異で説明できるはずなのに、その単一遺伝子変異が同定できていない希少疾患がたくさんあるので、それを同定するためのwebsiteを作りましたということです。

患者の数が多い疾患は、研究が進んでいるものの、そうでない疾患は研究が進んでいないので、比較的結果がシンプルな希少疾患に関してはきっと効果があると思います。

MyGene2のwebsiteには、Exome Sequenceもしてあげるよと書いてあります。
mygene3https://mygene2.org/MyGene2/
メンデル遺伝の希少疾患に関しては、ワシントン大学のプロジェクト内で、無料でExome Sequencingしてくれるものもあるみたいですが(University of Washington Center for Mendelian Genomics (UW-CMG) http://uwcmg.org/#/)、審査が厳しいらしく、その審査に通らなかった希少疾患に関しては、825ドルでWholeExomeSequencingしてくれるとのことです。安いですね。

raw dataと結果のレポート文書をくれるとのことです。僕の友人がもし家族性希少疾患を患っていて、その疾患が原因遺伝子がわかっていなければ、僕は間違いなくこのサービスを利用すると思います。
ちょこっと調べたところまだまだデータは集まっていないみたいでしたが、これからに期待です。

後の3つはまた次回詳細を書きたいと思います。

今回はここまで。

鈴木瑞人
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士課程1年
東京大学機械学習勉強会 代表
NPO法人Bizjapan

 

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