2016.08.01 Mon |
【人の精神疾患のモデルになる、目がない、眠らない、群れない魚】
【人の精神疾患のモデルになる、目がない、眠らない、群れない魚】
最近気になる科学ニュースがあったので、内容をまとめてみました。
光が届かない洞窟内で進化的に眼を失った魚(Mexican tetra:Astyanax mexicanus)が、ヒトの精神疾患(統合失調症、自閉症)のすごくいいモデルになるとのことです。
今サイエンスコミュニティで少し話題になっています。
その魚は、社会的な構造を持たず、群れで泳ぐこともせず、孤独な魚生を過ごす(眼が見えず、上位捕食者がいない環境なので納得はいきますが)、
ほとんど寝ない、過剰に活動的、(他の魚と違って)水表面の振動に引き寄せられる、同じ行動を何度も何度も繰り返すなどの、精神疾患の症状を示します。
この魚と近縁(進化系統的に近い)で、明るい水表面で生活している魚は、この眼を失った魚と交配可能であることから、この2種類のゲノム(遺伝子配列を含むすべてのDNA配列)を比較することで、この目を失った魚の、統合失調症的、自閉症的な行動の意味を、見出すことが出来るかもしれないということで、調べてみたところ、
ヒトの古典的精神疾患リスクファクター101個のうち90%がこの目のない魚で見つかりました。
またその3分の1の遺伝子において、眼のない魚の方が明るいところに住んでいる方の魚より活発であることが分かりました。
ヒトにおいて、精神疾患病の薬として使われているFluoxetine(Prozac)を眼のない方の魚に与えたところ、攻撃的になることが観察されましたが、ヒトで使われるより強力な精神疾患薬Clozapineを、眼のない魚に与えたところ、より長く眠って動きも穏やかになる傾向がありました。
現状のマウスのモデルだと、ヒトにおいて精神疾患のリスクファクターと考えられている遺伝子を壊しても症状が何も出ないことが多いため、マウスでの精神病研究には限界があります。
この魚のモデルは、今後の統合失調症・自閉症のモデルとして、有用である可能性が高いとのことです。
勿論、(硬骨)魚類とヒトは、進化的に4億年前に分岐しており、魚の結果がそのままヒトに適用できるかわからないですが。
進化的にさらに古くに分かれているハエとヒトにおいて、ハエの神経研究は、ヒトの精神疾患メカニズムの多くを明らかにしており、それを考えれば、同じ脊椎動物である、硬骨魚類は、かなり可能性があるともいえますね。
参考文献:
鈴木瑞人
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士課程1年
一般社団法人Bizjapan