2016.12.02 Fri |
解析事例紹介4: コジョイント分析を用いた新製品の開発
解析事例紹介も第4回となりました。
今回はデータ解析手法を新製品開発に応用した事例をご紹介したいと思います。
今回使用するのは、「コジョイント分析」です。
【コジョイント分析って何?】
コジョイント分析とは、たとえば、新しく開発する商品やサービスを要素に分解し、それを様々に組み合わせたものを消費者に評価させ、どの組み合わせにするとどのような評価を得られるのかを推定する方法です。
【なぜコジョイント分析を使うのか?】
消費者自身は、商品のどの要素に対して、どれくらい重視しているのか自覚していないことが多いので、商品の各要素について、個別に好みのものを選択してもらっても、そこで得られた結果は実際には有効でないことが多々あります。なので、各要素全体の組み合わせとして、評価してもらい、解析することで、各要素のどれを使うのか、全体としてどれとどれを組み合わせるのが最適なのかを知ることができます。
【コジョイント分析のすごいところ】
商品の各要素ごとの評価であれば、各要素の選択肢の数だけ、消費者にアンケートを取ればいいのですが、もし、各要素全体の組み合わせを調べるとしたら、例えば、各要素3つの選択肢があるとして、5要素の組み合わせを調べる際、3の5乗=243通りの組み合わせについて消費者に回答してもらう必要があります。それだと、回答者が大変なのと、あまりに答える項目が多くて、脳が疲れてしまい正しい答えが得られない傾向があります。
そこで、直交表と呼ばれる「どの属性でもすべての要素が同じ数だけ出現するすべて異なる組み合わせ表」を使用します。直行表は各列間の相関係数が0になります。L8直交表なら本当は126通りの回答が必要なところを8通りの回答に減らすことができます(交互作用を考えない場合)。
もともとは「実験計画法」といって、科学実験を効率的かつ統計的に実験不足の問題がでないように実験計画するために開発された手法です。
【本質的には】
コジョイント分析の本質は、多変量解析・教師あり学習(回帰・分類)の変数選択にあります。例えば、売り上げに貢献する要素が何かを検討するときと同じです。それに加えて、直交表による、データ取得の効率化が、コジョイント分析において優れている部分です。最近機械学習ブームで、古典的な多変量解析は軽視される傾向がありますが、直交表使用による必要データ数の削減の価値は再度、見直されることでしょう。
【アメリカでのコジョイント分析の応用目的】
分野 1971~1980年 1981~1985年
新製品開発 72% 47%
競合分析 ー 40%
価格決定 61% 38%
マーケットセグメンテーション 48% 33%
リポジショニング ー 33%
広告 39% 18%
流通 7% 5%
※Wittink, D.R.& Cattin, P.(1989). Commercial use of cojoint analysis: An update. Journal of Marketing, 53, 91-96
【日本のマーケティング分野におけるコジョイント分析の適用事例】
商品 応用成果
【日用雑貨】
シャンプー シミュレーション
ワイシャツ
ジーンズ
【飲食料品】
贈答品
スープ 新商品開発
栄養食品 シェア予測
バニラアイス 選好構造の把握
コーヒー 対話側ソフトの開発
衣料用洗剤
【耐久消費財】
集合住宅 事業化
MV 試作品開発
乗用車 商品化
オートバイ 商品化
電子レンジ
MDレコーダー
【サービス業】
旅行プラン
リゾート施設 スキー場企画
テレビ番組
ガソリンスタンド 応対サービスの価格換算
【事務機】
ワープロ 商品化
コピー機 商品化
パソコン 製品提案
※多変量解析実例ハンドブック(新装版)(2013) 朝倉書店
それでは新製品開発の実例をご紹介します。
【今回の出典】
朝野煕彦(1997) Cojoint分析における価格処理の問題.消費者行動研究,4(2),27-41.
朝野煕彦(2000) 入門 多変量解析の実際(第2版).講談社
【開発事例】
【背景】
リコー(もともと理化学研究所発ベンチャー。現在は大企業。)では、1993年より、ユーザーとともに製品を開発する、「共創」と呼ぶマーケティング活動を開始しました。共創は顧客満足度を高める製品開発を目標とするシステムであり、開発理念でもあります。
【目的】
リコーでは、「imagio MF 150」の後継を開発するプロジェクトを1994年に開始しました。この製品は一般オフィス向けデジタル複写機です。ユーザーのニーズを製品設計に取り込むためにコジョイント分析を実施し、顧客満足度の高い製品を設計することを目標にしました。
【属性と水準の検討】
リコーの営業部からの予備情報をもとに検討を行い次表に示す属性と水準をコジョイント分析で取り上げました。Addelman(1962)の非対称直交配列を用いて属性・水準を割り当て18枚のコンセプトカードを作成。
ー分析する属性・水準ー
ーーーーーーーー水準1 水準2 水準3
占有幅 580mm 800mm 980mm
属性A a1 a2 a3
属性B b1 b2
コピースピード 20cpm 15cpm
価格 50万円 65万円 80万円
属性C c1 c2 c3
排紙面 裏面排紙 表面排紙
【調査の実施】
開発品の前身機である「imagio MF 150」の事務所ユーザーを対象に1994年2-3月に調査を実施。18枚のコンセプトカードを事務所への導入意向に従って1位から18位まで順位付けしました。このタスクは回答者負担が大きいため、朝野(1988)が命名した「三ツ山法」を用いて順位付けしました。これは、初めに「買いたい」「買いたくない」「どちらともいえない」という3つの山にカードを分けさせたうえで、次に詳細に順位付けを行わせる手法です。
【分析結果】
寄与率
占有幅 48.6%
属性A 11.5%
属性B 5.1%
コピースピード1.2%
価格 14.5%
属性C 5.1%
排紙面 12.9%
・占有幅が他の属性と比べて寄与率(contribution rate)が48.6%と大きく、顧客は占有幅980mm, 800mmより580mmを強く好むことから、省スペースに対するニーズが大きいことが分かりました。
・価格の寄与率は14.5%で第2位であり、80万円、65万円より、50万円の価格が好まれることが分かりました。
・「排紙面」では寄与率の大きさが12.9%で第3位であり、裏面排紙より、表面排紙が好まれることがわかりました。
・当初大切と考えられていたコピースピードの寄与率は1.2%で一番小さく、顧客はコピースピードについては既存のスピードで満足していると考えられました。
【製品への結果反映】
複写機の従来方式は、コピー後の用紙を複写機の外側の排紙トレーに排出する方式でした。すなわちウィング有複写機(胴外複写機)といい、以下の写真のようなものです。
それが、コジョイント分析の結果を踏まえて、ウィングレス型(胴内排紙)を採用することにしました。これにより従来の同じクラスの製品と比較して約30%の省スペースとなりました。胴内排紙とは以下のようなタイプです(同じ型番が見つからなかったので違う製品ですが)。
「imagio MF200/MF2200」は以上の企画設計を経て、1996年8月に市場へ導入されました。今は、胴内排紙型複写機はみなさんおなじみかと思いますが、これはコジョイント分析の結果であることはあまり知られていないことです。
みなさんもコジョイント分析がやってみたくなったらRを勉強しましょう。Rは無料で使えて、conjointパッケージなどを用いることで、簡単にコジョイント分析ができます。何十万円もするコジョイント分析用のソフトウェアを購入しなくても大丈夫です。
今日はここまで。
鈴木瑞人
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士課程1年
東京大学機械学習勉強会
NPO法人Bizjapan