2017.06.30 Fri |
人工的な人間
こんにちわ!
いつもリツアンさんのblog記事書いてる鈴木瑞人です。
後輩の東大教養学部の1年生に、人工知能系の記事を書くように頼んだら記事を書いてくれました!
脳科学に強い興味を持ち、脳の画像処理をするために最近プログラミングとDeeplearning学び始めた子です。
文学のバックグラウンドがある子が人工知能系の記事書くとこんな風になるんだと少し勉強になりました!
蛇足ですが、文末に僕の感想を載せておきました。
それではお楽しみください。
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かの有名な小説「フランケンシュタイン」は、死体をつなぎあわせ、人工的に「人間」をつくりだした青年の悲劇を描き出している。19世紀前半に書かれた時、この小説はただのファンタジーにすぎなかったが、現代では「人間」をつくりだす動きは活発だ。人間の定義を考えてみると、ヒトと人間の違いということで、知性が一つ考えられるだろう。チンパンジーと人間が遺伝的に近似しているのは有名な話である。しかし二者の間には、知性という超えられない壁があるように思われる。

この知性を模倣したものが、アルファ・GOやディープブルーなどの、ソフトウェアの総体して、人間に知性を捉え、それをつくりだそうとする動きといえよう。その他に人間を人工的につくる方法として、例えば、脳の物理システムそのものを模倣する動き(ニューラルネットワークの人工生成)や人間の身体性を機械としてコピーしようとする動き(ヒューマノイド)がある。これらの研究は、人間をつくりだすというよりも、寧ろ人間の神秘を暴こうとする過程において現れた。つまりは人間を研究、分析するのでなく、一度つくってみて、それによって人間をより深く理解しようとするということだ。意識がどのようにして立ち上がるのか、我々は自律的な存在である(自由意志を持っている)のかといった、人間の根幹にかかわる問題は解決されていない。これらの研究は、まだ人間の実体に迫るところまでは進んではいない。
フランケンシュタインは人工的生命をつくりだすことに成功したものの、悲劇に終わった。現代の状況を見ていると、私たちは目標に到達するスタート地点にたっただけのようだ。しかしそれがどのような結果をもたらすのかは、誰にも分からない。この目標までのに道のりを人生と例えるならば、映画Forrest Gumpで言われたように、”Life is like a box of chocolates. You never know what you’re gonna get until you open it.”
東京大学教養学部 一年 R.S
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みずとコメント
フランケンシュタインという単語は聞いたことあったんですが、小説とか映画とかは読んだり見たりしたことはありませんでした。
軽く調べてみたところ、自然科学を学んだ青年フランケンシュタインが、墓場や解剖室、屠殺場などから人や動物の肉片を取ってきて、意志を持つ人造人間を作ったものの、人造人間の見栄えがひどく、人造人間は人間のコミュニティには受け入れてもらえず、人造人間はフランケンシュタインに異性の人造人間を作るように頼むものの、フランケンシュタインが受け入れず、失望した人造人間が、フランケンシュタインの妻や友人を殺害し、それに怒ったフランケンシュタインが、人造人間に復習しようとして、、、という物語みたいです。
今回書いてくれたトピックは、以下の要素からなると思っています。
・生命体の理解・合成
・知性の創造
・チンパンジーとヒトとの違い
・汎用的人工知能
・脳と同じ機能をもつ人工知能を作成することで脳を理解しようとする試み。
どれも非常に興味深く、研究も盛んに行われているので、僕なりに最新の知見も交えて、ご紹介していきたいと思います。
1,生命体の理解・合成
生命は、細胞から構成され、その細胞を作成することが、生命の合成の第一歩となります。細胞は遺伝暗号をも含むDNAを主体とする”核”と、それの入れ物である細胞質・細胞膜からなります。
この核の合成は、それなりにうまくいっているのですが(※1)、入れ物である細胞質・細胞膜の合成が難航しているようです。なので、”核”だけ合成し、入れ物は既存の生命のものを使いまわしているのが現状です。
マイコプラズマというバクテリアに関しては、2016年に生命に必要な遺伝子セットを特定し(※2)、”生命とは何か?”という問いに新しい答えを与えています。
※1:Creation of a bacterial cell controlled by a chemically synthesized genome. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20488990
※2:Design and synthesis of a minimal bacterial genome. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27013737
2,知性の創造
脳も細胞からできており、その細胞の合成がなんとかできるかできないかというのが、現在のレベルであり、細胞から合成しようとすると脳は今のところできません。しかし、ES細胞や京大の山中教授らが作成したiPS細胞からは、脳のミニチュアが作成できるようになりました(※3)。今のところ意識を持つには至っておらず、脳の発生の研究や脳の病気の原因遺伝子が脳発生のどこで影響するかなどの研究で使われているようです。
※3:Cerebral organoids model human brain development and microcephaly https://www.nature.com/nature/journal/v501/n7467/full/nature12517.html
3,チンパンジーとヒトとの違い
ヒトとチンパンジーの遺伝的な違いは(挿入・欠失含めると)5%だけらしいです(※4)。
ヒトだけにある能力は意外に少なくて、たとえば、ヒトだけが、言語や道具を使えるというのも、最近の研究で否定されてきています。
ただ両者の脳の構造は確かに違うのと、チンパンジーに人間の言語を覚えさせることは今のところできていないため、遺伝的な違いは研究されており、たとえば、脳の大きさに影響するfzd8遺伝子(※5)、や言語に影響するfoxp2遺伝子(※6)の配列の違いがヒトとチンパンジーの違いを作っているとされています。ちなみにfoxp2遺伝子に変異があるヒトの家系では、言語的・文法的に障害が出ます。ヒトの正常なfoxp2遺伝子をチンパンジーに導入したら、チンパンジーもヒトの言語を扱えるようになるのかもしれませんね。現在の遺伝子編集技術をもってすれば(倫理的にアウトだと思いますが)できてしまいますからね。中国などでいずれやる人が出てくる気がします。
※4:Divergence between samples of chimpanzee and human DNA sequences is 5%, counting indels. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12368483
※5:Human-chimpanzee differences in a FZD8 enhancer alter cell-cycle dynamics in the developing neocortex. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25702574
※6:Molecular evolution of FOXP2, a gene involved in speech and language https://www.nature.com/nature/journal/v418/n6900/full/nature01025.html
4,汎用的人工知能
DeepLearning含め現在の人工知能はまだエキスパートシステムで、特定の領域のみに特化したものです。最近話題になった、囲碁をプレイするAlphaGoですら、まだ、エキスパートシステムの領域を出ていません。それと比較して、ヒトのように一つの脳で、歩行したり、ヒトと会話したり、文書を作成したり、将棋したり、といった、いろいろなタスクを行う知能のことを、”汎用的人工知能”と呼びます。AlphaGoを作成したDeepMindCEOのDemis Hassabisは、AlphaGoで使用した深層強化学習は汎用性があると言っていたので、今後が楽しみです。この分野は、今のところGoogle傘下のDeepMindが先行していますが、今後はTechGiants(Amazon,Facebook,Microsoft,Google)の主戦場の一つになることは間違いなく、誰が著しい成果を挙げるか目を離せません。
5,脳と同じ機能をもつ人工知能を作成することで脳を理解しようとする試み。
意外と思われるかもしれませんが、今まで人工知能と脳科学はお互いほとんど交わることなく別々の進歩を遂げてきました。たとえば、脳科学の知見を、人工知能に生かすというのは、今までほとんどできていませんでした。2010年ごろから人工知能の分野で、脳を模したNeuralNetworkが他の手法に比べ高い精度を出すようになってから、少しずつ、脳科学の知見が人工知能の研究に取り入れられていきました。逆に人工知能を作成することで、実際の脳の仕組みを明らかにしていこうという試みは、うまくいった例はまだまだ数少ないです。日本では、ドワンゴ人工知能研究所の山川先生が、全脳アーキテクチャイニシャティブ(※7)という特定非営利活動法人を作り、脳科学と人工知能の研究を融合させたり、汎用的人工知能を作成しようとしています。
※7:全能アーキテクチャ・イニシャティブ https://wba-initiative.org/
以上みずとによるコメントでした。
いろいろ考えさせられる記事を書いてくれた、東京大学教養学部 一年 R.Sさんに感謝です!
鈴木瑞人
東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士課程