2017.01.20 Fri |
Open Science(生命科学分野)3
この記事は、以前に書いた記事Open Science(生命科学分野)の1,2の続編です。
そちらに目を通してない方はそちらからご覧ください。
Open Science(生命科学分野)1
http://ritsuan.com/blog/5256/
Open Science(生命科学分野)2
http://ritsuan.com/blog/5281/
2017年1月現在、The Open Science Prizeというコンテストが開催されています。
https://www.openscienceprize.org/
現在6つのチームが出場しており、第一回では3つ、第二回では1つのチームのプロジェクト内容をご紹介しました。
今回は残り2つのうち1つのプロジェクトについてご紹介したいと思います。
プロジェクト名は以下です。
5, Real-Time Evolutionary Tracking for Pathogen Surveillance and Epidemiological Investigation(病原体の監視と疫学的調査のためのリアルタイムでの進化的な追跡)
まずはプロジェクトのwebsiteを見てみましょう。
http://nextstrain.org/zika/
一見して、ジカ熱ウイルスの系統樹がでてくるので、プロジェクト名にあった、”Evolutionary”の意味が文字通り”進化的”であることが分かりますね。
ちなみにジカ熱ウイルスは、主に蚊を媒介として人へ感染し、近年の流行地域は、下の図にで着色してある地域です。
【プロジェクト概要】
近年、感染力が強く、致死性も高いRNAウイルスが世界的に流行する事態が合いついています。特にRNAウイルスは、自身の変異が早く、同じウイルスでも、短期間で進化し、感染力を高め、広く人に感染します。
本プロジェクトは、ジカ熱ウイルスとエボラウイルスのゲノムデータから得られる、進化系統樹を一カ所でまとめシェアするプロジェクトです。
(写真はエボラウイルス)
それにより、どの国からどの国へ、ウイルスがいつ持ち運ばれたかがわかり、もしある系統のウイルスに有効な治療方法が分かった場合、同じ系統のウイルス感染者への治療に生かすことができたり、感染拡大を封じ込める手段を推測することができます。
現在は、ジカ熱ウイルスとエボラウイルスにしか対応していませんが、コンテストの概要文を見る限り、MERSコロナウイルス(MERS:Middle East respiratory syndrome(中東呼吸器症候群 ))にも近い将来対応するようです。
基本的に、一般向けというよりも、医療従事者や研究者向けのプロジェクトですね。ウイルス感染患者からの検体(唾液など)を採取して、ゲノム情報を調べてから、数日以内に専門家の解釈を、このwebsiteを通して、広く周知するのが目的のようです。
それでは、せっかくなのでwebsiteを見ていきましょう。
http://nextstrain.org/zika/
これは、2014年1月10日時点でのZikaウイルスの系統樹です。色は国を表しています。時点は左上のバーで調整できます。ここでは、主にフランス領のポリネシアでのみ、確認されてきました。
http://nextstrain.org/zika/
これは2015年1月3日時点での系統樹です。オレンジの点、すなわち、ハイチでの感染が認められています。あとは、タイでの感染が2014年代中旬に認められています。
http://nextstrain.org/zika/
上図は2016年1月2日での系統樹です。2015年から2016年1月にかけて、水色の点がたくさん出現しています。幅広い枝で見られ、急激に変異を蓄積しているのがわかると思います。
http://nextstrain.org/zika/
次は2017年1月7日です。水色のブラジルで多くのZikaウイルスが観測されていますが、さらに、上の方の赤い丸、アメリカで、ブラジルで観測されたZikaウイルスの一部が進化したものが、大量に検出されています。
感染拡大はいまだにとどまることを知らず、さらに感染拡大しています。
日本にも、Zikaウイルスがもたらされる可能性は十分にあります。そんな時に、ここで日本のZikaウイルスがどこからもたらされたものなのか、多くの人が知ることができます。すばらしいですね。学術論文をみんなが見れるわけではありませんからね。
このwebsiteはエボラウイルスに関しても同じように系統樹の情報を提供してくれます。
webpageの左上のnextstrainの右隣のZikaをEbolaに変更することで、エボラウイルスの結果を見ることができます。
http://nextstrain.org/ebola/
上図の結果は2014年4月時でのEbolaウイルスの検出結果を示しています。
アフリカのギニアにおいて検出されています。
ちなみにギニアの地図の載せておきます。
アフリカの左側、赤道付近ですね。エボラウイルスの流行で問題になったのは、このギニア(Guinea)とリベリア(Liberia)、シエラレオネ(Sierra Leone)です。
http://nextstrain.org/ebola/
さて、2014年7月の様子を見てみましょう。水色・青色・紫色の〇はシエラレオネを指します。また、赤色・オレンジ色はリベリアを指します。このことから、ギニアではさらに感染者が増え、シエラレオネとリベリアにも感染が拡大したことが見て取れます。特に、シエラレオネでの感染の広がりはかなり深刻であることが予想できます。
http://nextstrain.org/ebola/
2015年5月になると、黄緑色とオレンジ色の点はなくなっています。つまり、リベリアでとギニアでは、Ebolaウイルスの蔓延は収束しているとみてよいでしょう。その一方で、青色と紫色は増える一方です。これはシエラレオネでのエボラウイルスの蔓延を示しています。
http://nextstrain.org/ebola/
そして、少々時間は飛びますが、2017年1月、2016年4月のギニアでのEbolaウイルスの検出を最後にもうエボラウイルスは検出されていません。すでにパンデミックは収束したようです。
以上見てきたように、各地域の患者のウイルスのゲノムを解析し、そのデータをシェアして、一つのサイトで素人にもかかりやすく可視化すると、いつどの国からどの国へどんな系統のウイルスが移っているかを、把握することができます。
何か新しいウイルスの流行があったときに、各医療従事者と研究者がこのwebsiteで最新情報を得て、また、検査結果をこのサイトにすぐアップできる仕組みが整えば、より正確な診断と治療につながるかもしれませんね。
今日はここまで。
鈴木瑞人
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士課程1年
東京大学機械学習勉強会
NPO法人Bizjapan