2017.08.12 Sat |
CO2メーター導入のススメ
みなさんは、CO2濃度を気にしたことは在りますか?
僕はあります。大学の受験勉強をしているとき、たまに眠気に襲われたり集中力が切れる時があったのですが、それが結構無視できない頻度で起きたことがあり、原因を究明したことがきっかけでCO2濃度を気にするようになりました。
少し僕の過去を振り返ります。僕は、大宮や池袋などの有料自習室を使っていました(一か月1万円くらい)。そこで毎日お勉強するわけですが、集中できるときとできないときが明確に分かれました。
集中できなくて、外に出て深呼吸するとかなり頭がクリアになることが毎回でした。そして、有料自習室の空気の入れ替えを行う朝方は集中できるのに、夜になるにしたがって集中できなくなることなどから、酸素濃度が低くなるか二酸化炭素濃度が高くなると、集中できなくなり眠くなることを突き止め、その後は、自分が”空気が濁って来たな”と思ったら管理人の人に頼んで、空気を入れ替えてもらうようにしました。その結果毎日最高の集中力を維持できました。
この知識は、大学に入ってから、塾講師や家庭教師をやっているときに生徒から勉強中の眠気の克服方法を聞かれたときに非常に役立ち、他に僕のような回答ができる人がいないらしく、かなり喜ばれました。
基本的に僕は喫茶店で作業する習慣をつけているので、あまりCO2濃度は気にしないようになったのですが、最近3-4か月ほど室内でデータサイエンスの講義動画を撮影するタスクを抱え、室内のCO2濃度を管理するシステムがなかったので、CO2メーターを購入し、24時間CO2濃度を計測するようになりました。大体CO2濃度が1200ppm以上になると眠くなる・気分が悪くなる、といった症状が現れ、それ以下だと眠くなることはまずなく、最高のパフォーマンスが維持でき、寝る時も良い睡眠が取れている気がします。
ちなみにこれが僕が持っているCO2メーターです。大体1万3000円くらいでした。
これは、デフォルトの設定だと、1000ppmを超えた時にアラームが鳴るように鳴っています。設定を変えることもできますが僕は、デフォルト設定のままで、家では寝る時も1000ppmを超えないようにし、外出するときは、1000ppmを超えたらアラームを消すか場所を変えるようにしています。
広い喫茶店だと場所によって換気がよくできているところとそうでないところがあることがわかったり、人がたくさんいるところでは1200ppmを超えていたりといろんな発見がありました。
さて、今までは個人的な体験と感想をお話してきましたが、一般的にはどうなのでしょうか?
室内のCO2濃度が身体に及ぼす影響は、WHO(世界保健機関)とアメリカのEPA(US Environmental Protection Agency)が、過去何回も研究成果をまとめており、CO2に限らず様々な物質の影響をまとめています。
WHOなら、
WHO GUIDELINES FOR INDOOR AIR QUALITY
http://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0009/128169/e94535.pdf
Sick building syndrome
By: World Health Organization Regional Office for Europe
https://www.wondermakers.com/Portals/0/docs/Sick%20building%20syndrome%20by%20WHO.pdf
EPAなら、
Indoor Air Pollution: An Introduction for Health Professionals
https://www.epa.gov/indoor-air-quality-iaq/indoor-air-pollution-introduction-health-professionals
Indoor Air Facts No. 4 (revised) Sick Building Syndrome
https://www.epa.gov/sites/production/files/2014-08/documents/sick_building_factsheet.pdf
などですね。
今年の3月のHarvardBusinessReviewsにも記事があります。
Research: Stale Office Air Is Making You Less Productive
https://hbr.org/2017/03/research-stale-office-air-is-making-you-less-productive
1970年代の米国では、省エネ活動の一環として、建物の気密性を高めて換気率を低くする取り組みが実践されました。
その結果として、屋内に新鮮な空気を十分に取り込む構造は建築物に求められなくなり、屋内に汚染物質がたまることになり、”sick building syndrome” (SBS)(シックハウス症候群)という症状が出ました。
WHOが定義するSick Building Syndrome(SBS)は、
・眼の乾燥、流涙(時々かゆみ、疲れ、赤み、コンタクトレンズ装着困難)、炎症
・鼻水または鼻の閉塞(鼻血、かゆみ、鼻づまりなど)
・咽喉痛(上気道刺激、嚥下困難)
・皮膚の乾燥、かゆみ、発疹、
・頭痛、倦怠感、過敏症、集中力の低下
https://www.wondermakers.com/Portals/0/docs/Sick%20building%20syndrome%20by%20WHO.pdf
という症状を伴うそうです。
逆に通気性(換気率)を改善すれば、シックビルディング症候群が改善し、常習的欠席が減り、伝染病の感染率も低下することがいくつかの研究により実証されているそうです。室内の換気をしっかりすることで、揮発性化学物質の濃度が減少し、CO2濃度が減少し、O2濃度が増え、大気中のウイルスや細菌が減少し、様々な良いことがあるということですね。
今回はCO2にフォーカスを絞ってお話します。
CO2濃度が労働生産性の指標の1つである認知機能に影響するかについては、今年2017年3月のHarvardBusinessReviewsで紹介されています。
Research: Stale Office Air Is Making You Less Productive
https://hbr.org/2017/03/research-stale-office-air-is-making-you-less-productive
この研究は、ハーバード大学公衆衛生大学院の助教授のJoseph G. Allenがメインでなされました。
ここでの研究によると、
まず研究の第一段階では、
空気中の二酸化炭素の濃度を、
1,換気率を高めた低水準(600ppm[100万分の1])、
2,多くのオフィスで典型的に見られる水準(950 ppm)、
3,米国の学校でよくある高水準(1400 ppm)
の3つを設定し(実際には揮発性有機化合物(VOC)の量も変化させている)、
毎日の終わりに24人の被験者(経営者、建築士、デザイナー)に、認知機能の標準テストを行ったところ、CO2濃度が低く(化学物質の濃度も低い)環境の中で働いていた時には、9つの認知機能領域で、テストの得点が高くなったそうです。最もテスト結果が改善したのは、情報を使って戦略的決定をする分野と、危機の最中に計画を立てて戦略を練る分野で、
二重盲検法でも試され同じ結論に達し、また、同一人物で、環境を変えて得点を比較しても、空気がよいほどパフォーマンスがよいことが分かったそうです。
そして研究の第二段階では、米国各地にある合計10棟の建物(うち6棟がグリーン認定を受けている)で働く100人以上の知識労働者に認知機能をテストしました。
ちなみに、グリーン認定を受けた建物は、単に省エネというだけでなく、換気率もよいです。給与、職種、地理的位置などの要因を考慮してデータ処理すると、グリーン認定を受けた建物で働く人たちの方が、テストで高得点を取ったそうです。
また空気の質に加え、温度もパフォーマンスに影響を及ぼすことが判明しました。標準的な快適温度で働いていた時のほうが、どの建物にいても意思決定のテストで好成績が出たとのことです。
ということで、しっかり換気した方が良いみたいですね!
僕の独断と偏見ではないようです。
日本において、建物内の空気管理は、厚生労働大臣が定める「空気調和設備等の維持管理及び清掃等に係る技術上の基準」に従って、維持管理しなければならなく、例えばCO2濃度は、1000ppm以下と定められていますが、すべての建物がこの基準を順守しているわけではないと思うので、気になる方はご自分で空気をモニタリング・管理(に関わる)するのが良いと思います。以下に、厚生労働省のページからとってきた空気調和設備を設けている場合の空気環境の基準を張り付けます。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/
ところで、みなさん、地球温暖化とCO2の関係を聞いたことはありますか?
CO2が地球温暖化をもたらしているのか、そもそも地球温暖化は進んでいるのかは少し議論があるところですが、確実なことは、CO2濃度が毎年上昇していることです。地球規模だと、毎年、2~3ppm上昇しています。
http://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html
今普通に外でCO2濃度を測ると、410ppmくらいですが、10年前は、385ppmくらいだったんですね。さらに10年前は365ppmくらいです。
大体20年で45ppm上昇したのでこのペースでいけば、大気のCO2が1000ppmを超えるのが260年後くらいですかね。窓を開けてもよい空気にならない時期は。もちろんこんな簡単な話ではありませんが、みなさんにCO2をより身近に感じてもらうためにこの例を出しました。
CO2メーターを買ってCO2モニタリングすれば、地球規模でのCO2濃度上昇まで実感することができるわけですね。
というわけで、ぜひCO2メーターを買うことをオススメします!
鈴木瑞人
東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士課程
東京大学機械学習勉強会 代表
NPO法人Bizjapan テクノロジー部門BizXチームリーダ