2018.06.14 Thu |

人材育成やマネッジメントへのAIの適用と限界

今回は「人材育成やマネッジメントへのAIの適用と限界」について、鈴木瑞人が執筆します。

今までAI×人事(Human Resource:HR)について、いくつか記事を書いてきましたが、
最近、人事分野にAIを適用することについて少し限界を感じていて、
「AI×人事」の現状と限界とその突破口、について書きたいと思います。

まず現状から。
現状では、AIは人事分野において、リアルタイムでの従業員の離職確率の算出による重要な従業員の離職防止や、
従業員のパフォーマンスの定量的算出による、パフォーマンス向上条件の導出、
などが行われて、それなりに成果を出してきました。

例えば、離職確率に関しては、ヒューレットパッカード(HP)は、
全世界の従業員33万人以上の従業員一人一人について、離職する確率(逃亡リスク:flight risk)を算出しており、
離職する確率(逃亡リスク:flight risk)を算出したことで以下のことを可能にしました。
・管理職は可能なら離職を思いとどまらせるか、離職を前提とした業務計画を立てる。
・欠員補充を容易にし、生産性の低下を最小限にする。
・全世界で336億円のコストを削減する。
https://ritsuan.com/blog/6787/

それでは次に、
「AI×人事」の限界について書いていきましょう。

あくまでも現状の限界で、あくまでも個人的見解ですが、
「各社員の入社以前の情報と入社後の日々の情報がとれていない」ために、
「人材育成やマネッジメント」にAIを十分に生かすことができてない、
と感じています。

「各社員の入社以前の情報と入社後の日々の情報がとれていない」に関して、
「各社員の入社以前の情報」とは、
各社員が、
・何を学んできて、
・趣味は何で、
・家族構成は何で、
・夫婦関係はどのくらいうまくいっているか、
・夫婦共働きか、
・どんなタスクをどのくらいの速度で処理できるのか、
・働くモチベーションは何か、
・将来どのようなことがやりたいのか、
などで、

「入社後の日々の情報」とは、
・日々どのようなタスクをどのくらいの速度で処理しているか、
・営業は得意かどうか、
・デスクワークは得意かどうか、
・どのような上司と相性が良いか、
・部下を育成することは得意かどうか、
・月のうち何日がベストパフォーマンスを出せるか、
・月のうち何日がパフォーマンスの調子が悪いか、
・月のうち何日が機嫌がよいか、
・風邪をひきやすいかどうか、
・忘れ物をしやすいかどうか、
・重要なタスクを忘れやすいかどうか、
・創造的な仕事が得意かどうか、
・月のMeetingのうち何回開始前に来るかどうか、
・予定ができたら、スケジュール表に書く癖がついているかどうか、
・Excelが使えるかどうか、
・毎月何冊くらいの本やネット記事を読んでいるかどうか、
・毎月何枚のパワーポイントスライドを作っているかどうか、
・毎月のアウトプットの総量はどれくらいか、
・どれくらいの睡眠時間でどれくらいのパフォーマンスが出るか、
・どのようにマネッジメントされるのが向いているのか(細部まで指示だしされることを好むか、ざっくりとした指示を好むか、あまり指示されないことを好むか、進捗結果を逐次報告することを好むか、給料を増やすことでパフォーマンスが上がるか、ことあるごとにほめることで伸びるか、など)

現状では、各企業には、各従業員の情報を収集して、役立つ形に生かすことができていないと感じています。
どういうデータをとると、何に使えるようになるという先行事例も乏しく、まずデータのとり方がわからないとも感じられます。

HR tech業界のベンチャー企業などは、できる限りの従業員に関する情報をとろうと頑張っているところもありますが、
従業員が自分のデータを渡すことのメリットが少なく、むしろデメリットも生じるため、例えば職場にいる間、腕時計型のウェアラブルディバイスを付けることを拒否したり、首にかけるネームプレート型のセンサーで、誰とどのくらい話しているかの情報を取得することを拒否したり、従業員同士の会話を録音解析されることを拒否したりします。

情報をとられる側の気持ちもわかるので、このようなアプローチには限界があるのでしょう。

これが僕が感じている現状の「AI×人事」の限界です。

僕は、この方向は難しいと感じており新たな解決策を模索しています。

考えられる解決策のうち有効そうなのが、今までのいろいろな企業での人材育成やマネッジメントの現場で、経験則として蓄積されて来た知見を元に、従業員から取得すべき最小限の情報は何かを洗い出し、現状の各企業が持つ「人材育成やマネッジメントの手法」の一部を自動化して(AIは使っても使わなくてもよい)、人手を減らしたり、効率化する、というものです。

「いろいろな企業での人材育成やマネッジメントの現場で、経験則として蓄積されて来た知見」は、心理学の一種である「行動分析学」にかなり蓄積されており、ここでの知見と合わせて、どのようにAIが人材育成とマネッジメントに応用できそうか、現在探り中です。

いまのところ、トップダウン型のマネッジメントや、上司がすでにやり方を知っていて、それを部下に教えればよいタイプの教育では、「行動分析学」の知見はかなり使えそうなのですが、創造的な仕事で、上司を含めて誰もできないことを部下にやらせるような事柄に関しては、「行動分析学」から知見が得られそうかは見えてきていません。

僕の直感では、創造的な仕事をできる人材の育成は、それができる可能性がある人をいかに引っ張ってくるかにかかっているのではないかと思っています。ただ優秀な人を連れてきた後に、どのようにマネッジメントすべきかは(完全に自由にやらせてしまってよいのか、定期的に進捗報告などをさせるべきかなど)研究の余地がありそうです。

今回はここまで。

鈴木瑞人
東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻 博士課程
株式会社パッパーレ 代表取締役
NPO法人Bizjapan テクノロジー部門BizXチームリーダー
実践的機械学習勉強会 代表

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