2018.06.19 Tue |

行動分析学の人材育成・マネッジメントへの応用

この記事も、鈴木瑞人が執筆します。

前回、「人材育成やマネッジメントへのAIの適用と限界
という記事を書きましたが、そこで、「行動分析学」について取り上げました。
「行動分析学」は、基本的には、ハトや猿や障害を持った子供で実験することが多いため、組織運営や人材育成に役立つ知見ばかりではありません。
そこで、「行動分析学」からいい感じに、「人材育成やマネッジメント」に役立つところを抽出した本を見つけたので、それらの本を参照して特に参考になりそうなところを書きたいと思います。

今回は以下の3冊の本を参照します。
行動科学を使ってできる人が育つ! 教える技術 – 2011/6/21 石田 淳 (著)
<チーム編>教える技術 行動科学で成果が上がる組織をつくる!  – 2014/7/16 石田 淳 (著)
マンガでよくわかる 教える技術 – 2015/1/19 石田 淳 (著)

それでは、行動分析学に基づく、人材の育成法や指示の出し方、について書いていきます。
内容の目次は以下のようになっています。
1, 業務内容のチェックリストを作成必要性
2, 採用する前または、採用した後での面接で行うこと
3, 適切な指示の出し方(具体的な行動を指示する)
4, ほめ方・ほめるタイミング
5, 小さな課題・ゴールの作り方
6, 一度に指示することは、3つまで
7, やらなくてよいことリストを作る
8, 強化する行動は、綿密に選ぶこと
9, コミュニケーション量を一定にする
10,補助輪はずし

1, 業務内容のチェックリストを作成する必要性
採用面接または、採用した後に本人に何ができるのか質問する事柄をリストアップします。
これがないと次に行う「知っていること」「できること」チェックができません。

2, 採用する前または、採用した後での面接で行うこと
何ができて何をできないか、何を知っていて何を知らないかを徹底的に聞き出します。
チェックリストを使用しつつ網羅的に聞き出します。
日本人は相手への敬意を考慮して何が本当にできるのか聞くことをしない傾向がありますが、
ここでしっかり情報が取れていないと、後で適切な指示出しができません。

3, 適切な指示の出し方(具体的な行動を指示する)
なすべき行動を指示します。
あいまいな指示はだめです。たとえば、売り上げを上げてとか、がんばって、などです。
あいまいな指示は、具体的な行動にまで落とし込む必要があります。

4, ほめ方・ほめるタイミング
行動をしたら、行動の直後に行動したことを褒めます。
例えば進捗報告をしてもらったら、進捗報告してくれたこと自体(行動)を褒めます。通常進捗報告はされる側にメリットはあってもする側にメリットはありません。報告する内容が良くないものであれば、報告自体をしたくないのが心情です。

5, 小さな課題・ゴールの作り方
初めからその人が超えられるか超えられないかぎりぎりのタスクを与えるのではなく、簡単に超えられるタスクを設定します。
小学6年生に、小学6年生レベルのタスクを与えるのではなく、小学5年生や小学4年生くらいの確実に超えられる課題を与えて、褒めて自信を付けさせます。
徐々に課題のレベルを上げていき、その課題をこなせたらすぐ褒めます。行動をしてから褒めるまでの期間が長いとだめです。
小さなゴールについても、できるだけ達成度を数値で測れるようにしておく必要があります。

6, 一度に指示することは、3つまで
人は一度にあまりにも多い指示を出されると記憶できません。
以外にもこのルールは、様々な企業で活躍する優秀なリーダーに共通することらしいです。
指示したいことがたくさんあるのに、一度に3つしか指示できない場合、指示するタイミングを分散させる必要がでてきます。

7, やらなくてよいことリストを作る
これは、優秀な人であれば自然にできていることが多いですが、できていない人もいます。
上司がやらなくてよいことリストを作ってあげることで、指示がより明快になります。
結局全部やる必要があるとしても、あえてやらなくてよいことリストを作成することで、やることリストの上位が鮮明になります。

8, 強化する行動は、綿密に選ぶこと
行動を褒めるといっても、褒める行動を間違ってしまうと期待した結果を得ることができません。
たとえば、電話で営業する際、電話した行動だけを褒めるのではだめで、電話で営業するのがうまい社員がよくとる行動を褒める必要があります。でないと、結果が伴ってきません。あらかじめ、電話で営業するのがうまい社員の行動をよく観察して行動をリストアップしておき、その行動をとったら褒めるということが成果を出すうえで重要になってきます。

9, コミュニケーション量を一定にする。
離職率はコミュニケーション量に反比例していることが知られています。つまり上司の部下のコミュニケーション量が少ないほど部下が離職しやすいということです。
上司と部下のコミュニケーション量が多くすると、単に離職率が下がるだけでなく、業績も上がることがわかっています。
上司と部下のコミュニケーションは定量的に計測することが望ましいです。
できたら、いつ誰と何分くらい話したかをメモ帳に記録してデータとしてとると、あとで何かあった時に解析できます。
企業用にだれとだれがいつ対面で話したかを測定する社員カードを売り出している企業もあり、それを利用するのも手です。

10, 補助輪はずし
いつまでも詳細の指示を出していたら、部下はいつまでたっても自立せず、上司の負担が減りません。
補助輪を外すといっても、コミュニケーション量を減らすということではありません。
コミュニケーション量はそれなりに維持しつつ、細かな指示を減らしていきます。
行動分析学の分野では、補助輪(プロンプト)を外すことを「フェイディング」と言います。
現状では、見守る時間を増やすことで「フェイディング」するのが一般的なようです。

ということで、今回は、行動分析学を用いた「人材育成・マネッジメント」について書きました。
行動分析学の知見を用いることで、「人材育成・マネッジメント」の分野でAIを応用する際どのような点に着目して応用すればよいかがより鮮明になったかと思います。
例えば、
a) 優秀な社員の特徴を適切に抽出する必要性
b) 社員と定期的にコミュニケーションすることを上司に促す必要性
c) 新しい社員が、何を知っていて何を知らないか、何ができて何ができないかを、効率的に知る必要性
d) 上司に対して、一度に出す指示が多すぎる際に注意するAIの必要性
e) 部下の行動を適切に褒めることができていない上司にそのことを注意するAIの必要性
f) 補助輪外しをサポートする(長い期間指示だしし続ける上司に注意する)AIの必要性
などです。

このようなところに今後AIが使われていくべきだと思います。

今回はここまで。

鈴木瑞人
東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻 博士課程
株式会社パッパーレ 代表取締役
NPO法人Bizjapan テクノロジー部門BizXチームリーダー
実践的機械学習勉強会 代表

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