2016.11.30 Wed |

解析事例紹介1: 多変量解析を用いたオチのおかしさの研究

comedy

今まで機械学習・データ解析分析系の記事では、結構堅めな記事を書いてきたで、今回は緩めな記事を書きたいと思います。

出典は、

1, 増山英太郎(1988).落語のオチの計量心理的研究, 東京都立大学人文学部「人文学報」,196,17-35
2, 増山英太郎(1989).落語のオチの計量心理的研究(続), 東京都立大学人文学部「人文学報」,205,1-24

です。

この記事の題名は「多変量解析を用いたオチのおかしさの研究」となっていますが、まず、多変量解析は何かといいますと、大学の教養課程で基礎統計勉強した方なら少しわかるかもしれませんが、基礎統計で最後の方に学習する、単回帰以降の発展内容です。具体的には、重回帰、判別分析、主成分分析、階層クラスタリングが、該当します。今まで記事を書いてきた機械学習は、もともとは、多変量解析という名前でした。それからデータマイニングという名前になり、今は機械学習と呼ばれています。なので今回は古典的な機械学習で解析したものだと理解していただければ十分です。

今回は、手法の説明ではなく、何を目的にして、どのような手法で、何がわかったか、をお話したいと思います。

データ解析が、目的次第でいろいろなテーマを扱えることを理解していただければ幸いです。

all-around

まず、ここで扱う”オチ”とは、落語のオチのことを示します。
オチには様々なものがありますが、今回は、”トタン落ち”と”拍子落ち”について扱います。

“トタン落ち”とは、「最後の一言で話全体の筋がまとまる」ものです。
“拍子落ち”とは、「トントンと運ぶ”話法”でリズミカルに進んで、最後の一言で調子が変わる」ものです。

実験に使われたのは以下8つの演題です。

1,あたご山(拍子落ち)
2,看板のピン(トタン落ち)
3,二人グセ(拍子落ち)
4,京の茶づけ(トタン落ち)
5,けんげしゃ茶屋(拍子落ち)
6,猫の茶碗(トタン落ち)
7,動物園(拍子落ち)
8,蛇含草(トタン落ち)

被験者として、日産自動車の社員26名が集められ(この人選がなぞですが)、落語についての事前知識がどれだけあるか、テストを行ったあと、落語の内容の理解を容易にするために、各ストーリーについて、概要を書いた紙を読ませ、各演目を3分間聞かせ、その印象をSD法(※1)によって7段階評価させました。この手続きは8演題について同様に取られました。

そして以上のデータをもとに「拍子落ち」と「トタン落ち」の特徴が、統計的に導き出されました。

statistics

ちなみに※1のSD法とは、正式名称を、Semantic Differential Scale Methodと呼び、早い−遅い、明るい−暗い、重い−軽いなどの対立する形容詞の対を用いて、商品、銘柄などの与える感情的なイメージを、5段階あるいは7段階の尺度を用い、判定する方法です。

また、落語の音声を聞かせた後でのアンケート項目ですが、以下の14項目です。

1,この話全体は、軽いか、重いか
2,主人公の発言は、本音か、建て前か
3,あらすじを知らなくても、オチを理解できるか否か
4,主人公は人が良いか悪いか
5,落ちの持って行き方はリズミカルか、否か
6,主人公はケチか否か
7,落ちは常識的か否
8,主人公の行動はばかげているか否か
9,落ちは難解か否か
10,言葉の聞き違いがあったか、否か
11,最後の一言が、話全体と関係あるか否か
12,主人公の行動は、柔軟か否か
13,この話はリアルか、否か
14,この話は、おもしろいか、否か

正直結果を集計するだけで十分な気がしますが、

因子分析、主成分分析と重回帰分析を用いて解析しています。どれも、多変量解析において最も基本的な手法です。
因子分析・主成分分析により、今回のデータから、「拍子落ち」と「トタン落ち」の特徴が調べられました。
主成分分析から得られた主成分得点を説明変数、「おもしろさ」を目的変数として、重回帰分析が行われました。

因子分析と主成分分析の結果として、
「拍子落ち」:常識的で、嘘っぽい
「トタン落ち」:奇抜でリアル
という傾向が見出されました。

もう一度二つの言葉の定義を掲載しますと、
「拍子落ち」とは、「トントンと運ぶ”話法”でリズミカルに進んで、最後の一言で調子が変わる」もの。
「トタン落ち」とは、「最後の一言で話全体の筋がまとまる」もの。
です。

まあ、そんなものかなっていう感じですね。

次に重回帰分析の結果ですが、

1、オチが理解しやすくて、
2、オチが奇抜で、
3、話がリアルで、
4、主人公の行動が柔軟、
であるほど、面白い落語として感じられることがわかりました。

以上で簡単ではありますが結果報告終わりです。

・いろんな漫才や落語を集めてきて、こんな感じでどうして面白いのか分析してみると面白いかもしれません。
・ダウンタウンのお笑い動画で各笑いの箇所を分析して、お笑いを分類してみたら面白いかもですね。
・ダウンタウンの作品は、アメリカでは受けなかったらしいので、国による、笑いのツボの違いなども研究してみると面白い発見がありそうです。

sakana

今日はここまで。

鈴木瑞人
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士課程1年
東京大学機械学習勉強会
NPO法人Bizjapan

 

 

 

 

 

 

 

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