2017.08.14 Mon |

尊敬する人達③

PaloAlto前回、前々回に引き続き、鈴木瑞人が尊敬する人紹介をしていきます。
今回は、以下のリストのうち、Frederick Terman氏をご紹介します。
1,John Craig Venter
2,佐々木正
3,紺野大介
4,Linus Torvalds
5,Frederick Terman
6,John von Neumann
7,菅裕明
8,合田圭介
9,Hadley Wickham
10,Jeffrey Dean

Frederick Terman氏は、スタンフォード大学工学部電子工学科の教授であり、シリコンバレーの父と呼ばれています。彼がいなければ、スタンフォード大学発となる大学発ベンチャー”ヒューレットパッカード(HP)”やインテル(Intel)は、できなかったといってよいほど重要な役割をしています。
シリコンバレーの歴史を見てみましょう。
1900年 スタンフォード大学教育学部教授(アメリカ心理学会会長)Lewis Terman氏の息子としてFrederick Terman氏が生まれる。
1924年 Frederick Terman氏がMITでPh.Dを取得
1937年 Frederick Terman氏がスタンフォード大学工学部の教授に就任
1934年 ヒューレットとパッカードがスタンフォード大学工学部を卒業(所属ラボはFrederick Terman氏のラボ)し、ヒューレットはスタンフォード大学院とMIT大学院へ、パッカードはGEへ就職。
1938年 ヒューレットとパッカードがHP設立
1956年 Termanがトランジスタを発明しノーベル賞を受賞したWilliam Bradford Shockley Jr.氏をパロアルトに誘致。Shockley氏は、全米から優れた電子技術者8人を集めて研究所を設立。
1957年Shockley氏と対立した若手メンバー8人が、ノイスとムーアを中心にFairchild Semiconductor International, Inc.を設立。
1968年 親会社との意見衝突で、ノイスとムーアが離脱し、二人は新たに、インテル(Intel)を創業。
1976年 アップルコンピュータ設立
1977年 オラクル設立
1982年 サンマイクロシステムズ設立
1995年 Yahoo設立
1998年 Google設立
(日本経済新聞社「シリコンバレー革命」p176-177参照)

平成生まれの我々からすると、HPもIntelもAppleもあまり変わらない大企業ですが、HPの設立が1938年と一番古いんですね。

まあ、それはいいとして、とりあえず、Frederick Terman教授が、事の発端と言えるのがわかるかと思います。

僕が好きなFrederick Terman教授語録に、
“しっかりした理論的基礎のある人の方がビジネスチャンスが大きい”
というものがあります。学部を卒業してすぐ起業するのではなく、修士課程や博士課程、企業において理論と技術を磨いてから起業するようにという内容ですが、まさにその通りと思います。

実際Frederick Terman教授は、ヒューレットに対し、MITで電子工学の修士、その後Stanfordで電子工学の修士を取るように薦めました。

パッカードに対しては、GEに就職して設計と製造過程の乖離で生じる問題を見てきて解決策を考えるように薦め、4年後パッカードがGEで働いた内容を単位換算して、Stanfordでの工学系修士を1年でとれるように手配し、年間500ドルの奨学金も手配し、さらに特別研究員になるようにも手配し、Stanfordのビジネススクールの授業も無料で受けられるように手配しました。結婚したばかりのパッカードの妻に大学での職場も提供する至れにつくせりの対応でした。

HPの初めの製品は、Terman研究室の派生技術であり、HPはStanfood大学初ベンチャーとしてスタートしました。

さて、このFrederick Terman教授には、もう一つの顔があります。1940年アメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領は、「大統領令」を発令し、レーダーの開発を軍と大学に命じました。その令により、Frederick Terman教授はMITに設けられた、「無線研究所」に招聘され、レーダー、ソナー、VT信管の開発の総指揮者となりました。全米の工学系大学院のPh.Dコースをストップして、教師と学生4000名以上が集められた一大プロジェクトです。なぜこれほどまで人材を割いたのでしょうか?

アメリカの敵は日本とドイツであり、日本とは太平洋上で、海軍が保有する空母の艦載機と戦う必要があり、ドイツとは、大西洋にて潜水艦Uボートと戦う必要がありました。

日本との戦いで重要なのは艦載機を探知するための、艦船と航空機に搭載する「高性能なレーダー」と、10m以内に敵航空機が近接すると爆発する「VT信管」、
ドイツとの戦いで重要なのは、潜水艦「Uボート」の接近を早くから正確に探知するための「対潜ソナー」が、戦局を左右する最も重要な兵器でした。

イギリスから無償かつ無条件でアメリカに技術供与されたマイクロ波レーダー技術はFrederick Terman教授率いるMITの無線研究所で大きく発展し、識別範囲は半径250kmで3次元識別が可能になったのに対し、日本軍のレーダーは識別範囲が半径30kmで水平方向のみの2次元識別しかできませんでした。

アメリカのVT信管に関しては、10-15m以内に敵航空機が近接すると爆発するようになり、命中率は20倍に向上しました。

このレーダーとVT信管は1943年末にアメリカで世界で初めて完成し、1944年のマリアナ沖海戦で実戦配備された結果、日本海軍に致命的な損害をもたらしました。日本海軍はVT信管の存在を敗戦後に知りました。

1938年創業のHPもレーダーとVT信管の生産に携わり、レーダー用のマイクロ波発生器とVT信管用の高出力オーディオ信号発生器を開発し、アメリカ海軍に納入していました(正確に言うと可能性が高い(1995年D.パッカード著「HPウェイ」))。

国家の命運をかけたプロジェクトに創業間もないベンチャー企業が携わって成果を挙げるなんてすごいですね。Frederick Terman教授が輩出したベンチャーでFrederick Terman教授が取り仕切っている国家プロジェクトなので自然と言えば自然ですが。そしてHPは戦争特需の波に乗りしっかり資金を稼いでその後のビジネスにつなげたわけですね。

ということで、Frederick Terman教授についてのご説明を終えたいと思います。
一個人がシリコンバレーの基礎を築き、戦争においても戦局を左右するほどの力を持つなんてすごいですね。Frederick Terman教授が敵にいたら負けるのも仕方ないのかなという気もします。。

出典:イノベーションの成功と失敗 武田立著 瀬戸篤著

鈴木瑞人
東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士課程
東京大学機械学習勉強会 代表
NPO法人Bizjapan テクノロジー部門BizXチームリーダ

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