2018.06.24 Sun |

中国のAIベンチャー紹介

この記事は、鈴木瑞人が執筆します。

今回は、意外と知られていない中国のAI系ベンチャーをご紹介していきたいと思います。

1, 商汤科技(SenseTime)
2, 寒武紀科技(CAMBRICON)
3, 科大讯飞(iFLYTEK)

 

1, 商汤科技(SenseTime)
https://www.sensetime.com/

みなさんがおそらくよく知っている、snowというスマホアプリの顔認識の技術はSenseTimeの技術です。
画像認識の世界的権威として知られる、香港中文大学の研究室が母体であり、CEOの徐立も画像認識の研究者です。
SenseTimeの研究者の出身大学は、MIT、Stanford、清華大学、香港大学、香港科技大学など有名大学が名を連ねます。
Googleや百度、Microsoftなどの企業出身者も多くいます。

画像認識の技術力は極めて高く、画像認識技術の競技会・ImageNetで、2015年度と2016年度に優勝しています。

日本のAI企業でSenseTimeに勝てる企業はないといってよいでしょう(ぎりぎりPFNは可能性がありますが)。

中国の公安当局から防犯カメラの画像提供を受けてさらに顔認識の精度を高めているようです。
銀聯などでの金融機関のスマートフォンを用いた個人認証サービスも展開しているようです。
クレジットカード(正確にはデビットカード)である銀聯カードは発行枚数世界一(中国の銀行口座を作ると配布されるキャッシュカードに銀聯マークがついており、銀聯カードとして使える)です。

日本とSenseTimeの関係にも触れてみますと、
まず、ホンダとSenseTimeの提携があります。
2017年末に、5年間の共同研究の契約を結んでいます。

【共同研究開発の領域】
・自動運転システムへ適用するAIアルゴリズム
– シーン理解:走行環境と歩行者や車両の振る舞い・意図を推定
– リスク予測:走行環境と意図推定結果に基づく歩行者・車両の将来位置を予測
– 行動計画:リスク予測に基づき、停止・発進・回避などの自車の行動判断と走行軌道を生成
・AIアルゴリズムを学習するための大規模計算技術
・AIプログラムを車載コントローラーへ実装する技術
http://www.honda.co.jp/news/2017/c171207c.html

もう一つ日本とSenseTimeの関係を挙げると、SenseTime Group Limitedの子会社である
SenseTime Japan Ltdは、東京と京都にオフィスを持っています。

【京都本社】
〒604-0022
京都府京都市中京区御池之町324-1 御池幸登ビル4F

【東京オフィス】
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前4-3-15 東京セントラル表参道519号
https://www.sensetime.jp/aboutus

SenseTimeのポテンシャルを考えると今後10年くらいは彼らの動向から目が離せません。

 

2, 寒武紀科技(CAMBRICON)
http://www.cambricon.com/

中国科学院の計算機科学の陈天石教授が2008年に創業しました。幹部は主に中国科学院の元研究員から構成されます。
ちなみに、中国科学院は、中国におけるハイテク総合研究と自然科学の最高研究機関です。
人工知能開発の核となるGPU開発の業界でNVIDIAと対等にやりあおうとしている、かなりCrazyな企業です。
GPU市場を外資に占められたくない中国当局が強力な後ろ盾となっています。

ちなみに、日本では、NVIDIAに対抗できるGPUを開発できる(マーケティングも含め)企業はありません。

2017年8月には、中国最大規模の国有投資会社である国家開発投資公司傘下の投資ファンドが、CAMBRICONに1億ドル(約112億5500万円)を投資しました。ちなみにこの金額は中国では多くない方です。

 

3, 科大讯飞(iFLYTEK)
http://www.iflytek.com/en/

iFLYTEKは、中国科学技術大学出身者らにより、1999年に創設されました。
音声認識に強く、中国では7割以上の音声認識市場のシェアを押さえています。

技術的にも強く、国際的に権威ある音声認識コンテスト「Blizzard Challenge」で12年連続優勝しています。2017年の大会も4.0ポイントという高スコアで優勝しています。
http://www.festvox.org/blizzard/index.html

ベンチャーといっても、従業員8000人を抱え、時価総額は約1兆4000億円あり、今や大企業となりつつあります。

2017年11月に中国科学技術省は、国家レベルの次世代人工知能オープンイノベーションプラットホームとして、
Baidu:自動運転
Alibaba:スマートシティ
Tencent:医療画像
iFLYTEK:音声認識
と定めたのですが、BAT(Baidu, Alibaba, Tencent)に並んでなんとiFLYTEKも入っています。

アリババ、テンセント、華為などの中国の有力な企業にiFLYTEKの音声認識AIは採用されており、膨大な音声データを収集できています。

また、中国公安部は治安維持を目的として全国民の声紋情報を収集しており、iFLYTEKがその音声認識システムを開発していることからも、データを十分に取れていることがわかります。

iFLYTEKは、文章の読解認識にも注力しており、2017年8月に中国で行われた医師国家試験では、AIが初めて国家試験の筆記試験を通過しましたが、そのAI技術も提供していました。600点満点中456点のスコアで合格し、通過ボーダーである360点をはるかに超え、その成績はトップ100人に入りました。

日本だとAIが医者にとってかわられるなどと騒がれて、国家医師試験を通るAIは開発されていませんが、
中国はそういうことは気にしないでどんどん開発を進めてしまっていて、すでに国家医師試験を通過するAIができている現状は日本人にはなかなか信じがたい(見て見ぬふりをしたい)現実と思います。

日本では同じことをやろうとしても、そもそも、文章をAIに理解させる技術が低いことも大きな課題としてあります。
それは次でご紹介するSQuADというコンテストの結果でもご説明します。

Stanford大学が主催している、AI分野での英語の認識力と理解力を試すSQuADにおいても、iFLYTEKの研究者は上位にいます。
https://rajpurkar.github.io/SQuAD-explorer/
2018年6月24日現在、
4位:Hybrid AoA Reader (ensemble)
Joint Laboratory of HIT and iFLYTEK Research
13位:Hybrid AoA Reader (single model)
Joint Laboratory of HIT and iFLYTEK Research
19位:Interactive AoA Reader+ (ensemble)
Joint Laboratory of HIT and iFLYTEK
26位:Interactive AoA Reader (ensemble)
Joint Laboratory of HIT and iFLYTEK Research
と健闘しているようです。

ちなみにこのコンテストの内容は、10万個程度の文章をAIに学習させ、その後人間が質問して、AIが正確にその質問に答えられるかどうかと競うものになります。

上位30位くらいまで見ましたが、日本勢は見当たりませんでした。
これを見るだけでも、中国とアメリカの強さと日本の存在感のなさが実感できるでしょう。

 

鈴木瑞人
東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士課程
株式会社パッパーレ 代表取締役社長
実践的機械学習勉強会 代表
NPO法人Bizjapan テクノロジー部門BizXチームリーダー

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