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ショッピファイ、店主向けAIで在庫などを調べる作業を自社で鍛えた公開モデルに替え、試験で費用は大手モデルより約9割低い

2026.10.26
ショッピファイ、店主向けAIで在庫などを調べる作業を自社で鍛えた公開モデルに替え、試験で費用は大手モデルより約9割低い

カナダのショッピファイ(Shopify)は2026年10月21日、店主向けAI「サイドキック(Sidekick)」の仕事の一部を、自社で追加学習した公開モデルに替えたと技術ブログで報告しました。替えたのは、店のデータを調べる問い合わせ文を書いて実行する作業です。自社のAI採点役の点数では、それまでの大手モデルをわずかに上回りました。本番の通信を再現した試験では、応答が大手モデルより速く、モデルを動かす費用は約9割低くなりました。外部の検証はまだです。

この記事は、ショッピファイの技術ブログ(10月21日と8月5日)と、外部のEC情報サイトの記事(10月23日)にもとづきます。

何をしたか

サイドキックは、ショッピファイで店を開く人(店主)が使うAIの助手です。店主と話し、作業の計画を立て、道具を呼び出すのは、外部の大手のAIモデルです。ブログはモデルの名前を書いていません。決まった作業は、下請けの役に回します。

そのひとつが、店のデータを調べる役です。たとえば店主が「在庫がなくなりそうな商品はどれ?」と聞きます。この役は、ショッピファイのデータの仕様と説明書を読み、問い合わせの文(GraphQL)を書いて実行し、結果を返します。読む量は、書く量の約40倍です。大手モデルの料金は、読んだ量にもかかります。

ショッピファイは、この役のモデルを、エヌビディア(NVIDIA)が公開しているモデル「ネモトロン3.5ライトニング(Nemotron 3.5 Lightning)」に替えました。このモデルは300億の部品(パラメータ)を持ちますが、言葉を1つ扱うごとに働くのは、そのうちの30億だけです。ショッピファイはこれを、データを調べる作業向けに追加学習しました。学習したモデルの中身は手元にあるので、自社のGPU(AIの計算に使う半導体)で動かせます。

進め方は、次の順番です。

1. 良い答えの採点基準を作ります。基準は、もれなく答えたか、問い合わせの文が動いたか、返事の質の3つです。専門家2人が同じ会話をどれだけ同じように採点するかを目安にし、AIの採点役を、人の採点とそこまで一致するように調整します2. 大手モデルのままで、指示文や道具の説明を少しずつ直し、採点が上がる変更だけを残します。こうして上げた大手モデルの点数が、公開モデルの超えるべき線になります3. 公開モデルを同じ道具と採点役で試し、最初の点数や速さを見て選びます4. 毎晩、本番の会話の一部を採点し、満点でないものを直して学習データにします。直すときは、大手モデルが答えではなくヒントを書き、店主役のAIがそれを見てやり直します。採点役が合格を出したら、ヒントを消し、個人がわからないようにしてから学習に回します5. 追加学習して採点し、また4に戻ります

試した結果

学習を6回くり返したあとの数字を、大手モデルと並べました。

測ったこと 追加学習した公開モデル 比べたもの
🎯 自社のAI採点役の点数(100点満点) 74.5点学習前は37.7点。1回目の学習で61.5点 それまでの大手モデル:73点
⏱️ 1回の応答にかかる時間(中央値) 0.87秒本番の通信の流れを再現した試験 大手モデル:6.50秒
🐢 最も遅い1%の応答 8倍早く終わった 大手モデル
💴 この通信でモデルを動かす費用 約90%低い 大手モデル
🔁 失敗した会話を直して学習に回す仕組み 86晩で59,535件を直した試した失敗の69%。残りは人が直す —

数字はショッピファイの技術ブログ(2026年10月21日)による。点数は、ショッピファイが自社で作ったAIの採点役が付けたもの。—=比べたものの記載なし。

学習前の公開モデルは37.7点で、大手モデルの73点の半分ほどでした。1回目の学習で61.5点になり、6回目には74.5点になりました。6回の学習には、直した会話を合わせて6万1000件使いました。

速さの試験は、本番の通信の流れを、客のデータの代わりに作り物の文で再現したものです。1回の応答の中央値は、外のサービスとして呼び出した大手モデルの6.50秒に対し、0.87秒でした。同じくらいの大きさで、別に追加学習した公開モデルとも比べています。そちらは中央値では近かったものの、最も遅い1%の応答では2倍以上遅くなりました。

モデルを動かす費用は、この通信では大手モデルより約90%低くなりました。ショッピファイは、追加学習したモデル全体では、自社のGPUに置くと大手モデルの料金より90〜98%低いとしています。

まだ確かめられていないこと

数字はどれもショッピファイ自身の報告です。

📢 公表されている説明 ⚠️ こちらで確認できていないこと
追加学習したモデルは、この作業で大手モデルの点数をわずかに上回ったショッピファイの説明 ⚠️ 74.5点と73点の差が、たまたまの差でないか(ばらつきの記載なし)
⚠️ 自社の採点役ではなく、外の試験で比べたときにどうなるか
モデルを動かす費用は約90%低いショッピファイの説明 ⚠️ 比べた大手モデルの名前と、自前のGPUの費用をどう数えたか
⚠️ 8月の記事の「96%減」と比べ方がどう違うか
採点役は、人の採点との一致が、専門家2人どうしの一致と同じくらいになるまで調整したショッピファイの説明 ⚠️ 一致の度合いの数字(記事に記載なし)

凡例:📢=当事者が公表している説明 ⚠️=出典に書かれておらず、またはこちらで確認できていない点
説明は、ショッピファイの技術ブログ(2026年10月21日、8月5日)による。

ブログには、うまくいかなかった点や限界の記載がほとんどありません。

費用の数字は記事によって違います。8月5日のブログでは、同じデータを調べる役について、モデルを動かす費用を96%減らせると書いていました。大手モデルなら年に約40億円(約2700万ドル。1ドル150円で換算)かかる見積もりが、約1億5000万円になるという計算です。10月の記事は「約90%」です。2つの数字の比べ方の違いは説明されていません。

10月の記事は、エヌビディアの催し(GTCベルリン2026)での講演をもとにしています。モデル・学習の道具・GPUはエヌビディアのもので、記事の中でエヌビディアの機材の速さも紹介しています。その一部はエヌビディアが測った数字です。

外部の見方

ショッピファイの店主向けに情報を出しているサイト「ファウンダーズ・イン(The Founder’s Inn)」は10月23日、この報告を紹介しました。速さと費用の数字は、データを調べる役という1つの作業での結果だと断っています。サイドキックとの会話がどれもこの速さになるわけではなく、店主の支払いが減るとも限りません。点数も会社が自分で出した評価で、独立した試験の結果とは違います。

そのうえで、店主には、答えがわかっている質問をサイドキックに聞いて、元の記録と照らすことを勧めています。

誰に関係するか

AIを業務に入れ、使う量が増えてきた会社に関係します。たとえば、保険会社で契約の決まりを読んで、補償されるかを答える作業、物流会社で配送の記録から遅れの件数を数える作業、税理士事務所で領収書から日付と金額を抜き出す作業です。どれも毎回同じ形で、書く量より読む量がずっと多くなります。

規模が小さくても、ショッピファイと同じ順に進められます。まずAIに任せる作業を1つに絞り、良い答えの採点基準を作って、人の判定と合うかを確かめます。そのうえで、小さなモデルと大手モデルを同じ基準で比べます。追加学習や自前のGPUを考えるのは、その結果を見てからです。

まとめ

ショッピファイは、店主と話して計画する仕事は大手モデルに残し、読む量が多い決まった作業だけを、自社で鍛えた公開モデルに移しました。モデルを動かす費用は、大手モデルと比べて8月の記事では96%減の見積もり、10月の記事では約90%減で、数字がそろっていません。

参考文献

  • How Shopify turns open models into task experts(Andrew McNamara、Logan Vegna、Shopify Engineering、2026-10-21)https://shopify.engineering/open-model-task-experts
  • Sidekick’s continual learning loop(Andrew McNamara、Cody Mazza-Anthony、Shopify Engineering、2026-08-05)https://shopify.engineering/sidekicks-continual-learning-loop
  • How Shopify Fine-Tunes Open Source Models and Optimizes Inference Cost(NVIDIA GTC Berlin 2026、講演ページ)https://www.nvidia.com/en-us/on-demand/session/gtcberlin26-sb61184/
  • Why Shopify Sidekick uses specialist AI models(James Bennett、The Founder’s Inn、2026-10-23)https://thefoundersinn.cool/blog/shopify-sidekick-specialist-models-nemotron

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Kamone
著者 Kamone

30歳で学者志望からITエンジニアに転身。通信・金融業界におけるインフラ領域を中心に、オンプレミスからクラウドまで幅広く経験。AWS学習コミュニティでは公認メンターとして教材制作や講師を務める。現在はリツアンSTCにて事業推進に携わり、AI活用とエンジニア支援の高度化に取り組んでいる。

Kamone
著者 Kamone

株式会社リツアンSTC社員。

1984年 東京都中野区生まれ。

大学中退後、工場や警備員などを経て、何もスキルが身についていないことに危機感を覚える。
2014年 何か手に職をつけなければと思い、電子専門学校からエンジニアになった弟を見て「コイツにできるなら俺もできる」と安易な考えで未経験からIT業界に飛び込む。
そこは「まともな案件に入れなければ営業としてこき使われるか中国に送られるらしい」と恐ろしい噂が飛び交う会社だった。
「とんでもないところに来てしまった…」と戦慄するも、運よく大手新聞社系のインフラチームから声がかかり、エンジニアとしてのスタートを切る。

その後、SESを転々としながら通信・金融業界のオンプレ・クラウド案件を中心にインフラエンジニアとして経験を積む。

2021年 AWS学習サービス「Cloudtech」に参加し、公認メンターとして書籍出版プロジェクトや教材制作・講師などのコミュニティ・サービス運営に関わる。

2023年 ゆとりーマンのYoutube動画で新興SESの闇とリツアンの存在を知り、転職。(当時所属していたSES企業が動画で紹介されていた特徴に当てはまっていて愕然)
その後、CloudTechとリツアンの橋渡し役を担い、合同プロジェクト「テラコヤテック」の運営に関わる。
2025年 リツアンの「エンジニアに一円でも高い報酬を」「会社は社員に使われるためにある」「出入り自由」といったスタンスに共鳴。エンジニアから転向し、リツアンの事業推進に参画。
現在に至る。

他人の文体を真似たり、他人が書いた文章を手直しするのが得意、という若干嫌な気持ちにさせる特技を持つ。
AI活用を鋭意研究中。
(リツアンいいとこ一度はおいで。)

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