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セールスフォースの「コア」。CRM推論モデルを自社境界内で後学習した

2026.09.21
セールスフォースの「コア」。CRM推論モデルを自社境界内で後学習した

セールスフォース(Salesforce)は、エヌビディア(NVIDIA)と共同で、エージェントフォース(Agentforce)向けの初の顧客管理(CRM)推論モデル「コア(Koa)」を、2026年9月15日付の自社プレスリリースで発表しました。根拠の詳細は、製品ページと論文(arXiv:2609.15066)にもあります。基盤はエヌビディアの重みが公開された基盤モデル(オープンウェイト)「ネモトロン(Nemotron)」です。コアは、ネモトロン3スーパー(Nemotron 3 Super)を後学習して作りました。顧客データは学習に使わず、重みの管理と推論は自社の信頼境界(トラスト境界)の内側で行います。性能の数字は、いずれもセールスフォースの自社測定です。

何が起きたか

コアは、商談の更新、ケースの振り分け、フォローの予定作成など、CRMの多段階の作業を推論し、必要なツールを選んで進めるためのモデルです。学習用の本文は、すべて合成シナリオです。リードの獲得、商談の見極め、サービスケースの解決など、顧客ライフサイクル上の判断とツール呼び出しを、製造・金融・医療・旅行など14を超える業種で模しています。各シナリオは、役割(ペルソナ)とタスクを組み合わせ、完了までの行動とツール呼び出しの順を対応づけています。素材の設計は、約27年(リリースはほぼ30年近いとも)のCRM導入の知見をモデル化しています。

後学習では、教師あり微調整(Supervised Fine-Tuning、SFT)と、グループ相対方策最適化(Group Relative Policy Optimization、GRPO)による強化学習を使いました。実行には、エヌビディアのネモ・アールエル(NeMo RL)、ネモ・ジム(NeMo Gym)、ネモ・オートモデル(NeMo AutoModel)を用います。

論文(arXiv:2609.15066、提出2026年9月14日)では、基盤をネモトロン3スーパー120B(Nemotron-3-Super-120B)としています。学習データは公開データと合成データのみで、顧客データは含みません。

特徴は、ワークフロー仕様を役割付きの多ターン課題へ広げ、ツール利用の成否に基づく報酬で強化学習する、シミュレーションから報酬までの一連の流れです。企業向けの仕様は、エージェントフォース用の宣言型言語「エージェント・スクリプト(Agent Script)」で書きます。公開のツール利用領域では、ワークフロー構造そのものを合成します。

公開のツール利用・エージェント推論・企業CRMの各ベンチでは、オープンウェイトの元モデルより改善し、多ターンのツール利用で差が最も大きいです。強い非公開の比較対象(専有モデル)を上回る一方、最前線の最強モデルには届きません。

推論時も、顧客データが信頼境界の外へ出ないよう、セールスフォースのインフラ内で動かします。製品ページのFAQでは、応答の温度を0に固定してばらつきを抑え、モデル本体に加えて「サービング・ハーネス(serving harness)」で信頼と安全の制御を足します。

使い方は三つあります。データクラウド(Data Cloud)の生成AIモデル一覧から、管理された大規模言語モデル(マネージドLLM)として選べます。エージェントフォースの設定で組織全体のモデル提供者として選ぶ方法と、エージェントフォース・ビルダーでエージェントやサブエージェント単位に割り当てる方法もあります。

すでにセールスフォース社内では、スラック(Slack)上の従業員向けエージェントなどで使っています。顧客パイロットとして、ワンエイトハンドレッド・アカウンタント(1-800Accountant)、バクスター・クレジット・ユニオン(Baxter Credit Union)、エンジン(Engine)、フォーミュラワン(Formula 1)、シカゴ大学医学部(UChicago Medicine)、ゼロ(Xero)の名が挙がります。選定パイロット向けの提供は始まっており、一般提供(GA)は2026年冬(Winter 2026)の米国リージョンを想定しています。

何が変わったか

公表されている説明 こちらで確認できていないこと
ネモトロン3スーパーを合成データで後学習。顧客データ未使用。14業種超(PR/製品) 合成シナリオの件数・生成手順の詳細公開
SFT+GRPO。ネモ・アールエル/ネモ・ジム/ネモ・オートモデル(PR)。基盤は120B(arXiv) 学習計算資源、評価の再現手順
CRM Benchで先行モデル並み以上、誤りが3分の1(PR/製品。自社ベンチ) 比較対象モデル名、タスク数、第三者再測定
既定の一般向けモデル比で、正しいアクション呼び出し精度+11%、顧客コンテキスト想起の信頼性2.1倍、長いやり取りの文脈保持+15%(製品。自社測定) 分母・計測期間、失敗時の人手介入率
多ターンツール利用が最も伸び、強い非公開(専有)の比較対象超・最前線の最強モデル未満(arXiv要旨) 論文本文の数値表の独立再集計
重みは自社管理。推論はトラスト境界内。温度0。サービング・ハーネス(製品FAQ) 読者環境での同構成の再現手順
導入はマネージドLLM/組織全体の提供者/ビルダー単位(製品) 価格、トークン上限、日本リージョンの時期
社内利用と6社パイロット。GAは2026年冬・米国(PR/製品) パイロットの定量成果、日本向け提供時期

誰に関係するか

受託SaaSのオンボーディングでは、初期設定や権限付与の手順を短いツール呼び出しの列に分け、モデルは信頼境界内のマネージドLLMとして置き、最終の例外対応は人が承認します。卸の受発注では、在庫・納期・与信の参照順を合成シナリオで先に揃え、本番データは推論時だけ渡します。自治体の窓口案内や、BtoBメーカーの保守受付では、長い多段階の下調べだけを機械に寄せ、最終判断は人が行います。

まとめ

顧客データを学習に入れず合成シナリオで後学習し、推論は自社の信頼境界内に置き、温度を固定して応答のばらつきを抑え、最終判断は人が行います。

参考文献

  • Announcing Koa: Salesforce’s First CRM Reasoning Model, Built on NVIDIA Nemotron(Salesforce News、2026-09-15)、https://www.salesforce.com/news/press-releases/2026/09/15/koa-reasoning-model/ 、確認日 2026-09-21
  • Salesforce Koa(製品ページ)、https://www.salesforce.com/agentforce/koa/ 、確認日 2026-09-21
  • Salesforce Koa: An Enterprise Language Model for Agentic Tool Use(arXiv:2609.15066、提出2026-09-14)、https://arxiv.org/abs/2609.15066 、確認日 2026-09-21

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Kamone
著者 Kamone

30歳で学者志望からITエンジニアに転身。通信・金融業界におけるインフラ領域を中心に、オンプレミスからクラウドまで幅広く経験。AWS学習コミュニティでは公認メンターとして教材制作や講師を務める。現在はリツアンSTCにて事業推進に携わり、AI活用とエンジニア支援の高度化に取り組んでいる。

Kamone
著者 Kamone

株式会社リツアンSTC社員。

1984年 東京都中野区生まれ。

大学中退後、工場や警備員などを経て、何もスキルが身についていないことに危機感を覚える。
2014年 何か手に職をつけなければと思い、電子専門学校からエンジニアになった弟を見て「コイツにできるなら俺もできる」と安易な考えで未経験からIT業界に飛び込む。
そこは「まともな案件に入れなければ営業としてこき使われるか中国に送られるらしい」と恐ろしい噂が飛び交う会社だった。
「とんでもないところに来てしまった…」と戦慄するも、運よく大手新聞社系のインフラチームから声がかかり、エンジニアとしてのスタートを切る。

その後、SESを転々としながら通信・金融業界のオンプレ・クラウド案件を中心にインフラエンジニアとして経験を積む。

2021年 AWS学習サービス「Cloudtech」に参加し、公認メンターとして書籍出版プロジェクトや教材制作・講師などのコミュニティ・サービス運営に関わる。

2023年 ゆとりーマンのYoutube動画で新興SESの闇とリツアンの存在を知り、転職。(当時所属していたSES企業が動画で紹介されていた特徴に当てはまっていて愕然)
その後、CloudTechとリツアンの橋渡し役を担い、合同プロジェクト「テラコヤテック」の運営に関わる。
2025年 リツアンの「エンジニアに一円でも高い報酬を」「会社は社員に使われるためにある」「出入り自由」といったスタンスに共鳴。エンジニアから転向し、リツアンの事業推進に参画。
現在に至る。

他人の文体を真似たり、他人が書いた文章を手直しするのが得意、という若干嫌な気持ちにさせる特技を持つ。
AI活用を鋭意研究中。
(リツアンいいとこ一度はおいで。)