セールスフォース(Salesforce)は、エヌビディア(NVIDIA)と共同で、エージェントフォース(Agentforce)向けの初の顧客管理(CRM)推論モデル「コア(Koa)」を、2026年9月15日付の自社プレスリリースで発表しました。根拠の詳細は、製品ページと論文(arXiv:2609.15066)にもあります。基盤はエヌビディアの重みが公開された基盤モデル(オープンウェイト)「ネモトロン(Nemotron)」です。コアは、ネモトロン3スーパー(Nemotron 3 Super)を後学習して作りました。顧客データは学習に使わず、重みの管理と推論は自社の信頼境界(トラスト境界)の内側で行います。性能の数字は、いずれもセールスフォースの自社測定です。
コアは、商談の更新、ケースの振り分け、フォローの予定作成など、CRMの多段階の作業を推論し、必要なツールを選んで進めるためのモデルです。学習用の本文は、すべて合成シナリオです。リードの獲得、商談の見極め、サービスケースの解決など、顧客ライフサイクル上の判断とツール呼び出しを、製造・金融・医療・旅行など14を超える業種で模しています。各シナリオは、役割(ペルソナ)とタスクを組み合わせ、完了までの行動とツール呼び出しの順を対応づけています。素材の設計は、約27年(リリースはほぼ30年近いとも)のCRM導入の知見をモデル化しています。
後学習では、教師あり微調整(Supervised Fine-Tuning、SFT)と、グループ相対方策最適化(Group Relative Policy Optimization、GRPO)による強化学習を使いました。実行には、エヌビディアのネモ・アールエル(NeMo RL)、ネモ・ジム(NeMo Gym)、ネモ・オートモデル(NeMo AutoModel)を用います。
論文(arXiv:2609.15066、提出2026年9月14日)では、基盤をネモトロン3スーパー120B(Nemotron-3-Super-120B)としています。学習データは公開データと合成データのみで、顧客データは含みません。
特徴は、ワークフロー仕様を役割付きの多ターン課題へ広げ、ツール利用の成否に基づく報酬で強化学習する、シミュレーションから報酬までの一連の流れです。企業向けの仕様は、エージェントフォース用の宣言型言語「エージェント・スクリプト(Agent Script)」で書きます。公開のツール利用領域では、ワークフロー構造そのものを合成します。
公開のツール利用・エージェント推論・企業CRMの各ベンチでは、オープンウェイトの元モデルより改善し、多ターンのツール利用で差が最も大きいです。強い非公開の比較対象(専有モデル)を上回る一方、最前線の最強モデルには届きません。
推論時も、顧客データが信頼境界の外へ出ないよう、セールスフォースのインフラ内で動かします。製品ページのFAQでは、応答の温度を0に固定してばらつきを抑え、モデル本体に加えて「サービング・ハーネス(serving harness)」で信頼と安全の制御を足します。
使い方は三つあります。データクラウド(Data Cloud)の生成AIモデル一覧から、管理された大規模言語モデル(マネージドLLM)として選べます。エージェントフォースの設定で組織全体のモデル提供者として選ぶ方法と、エージェントフォース・ビルダーでエージェントやサブエージェント単位に割り当てる方法もあります。
すでにセールスフォース社内では、スラック(Slack)上の従業員向けエージェントなどで使っています。顧客パイロットとして、ワンエイトハンドレッド・アカウンタント(1-800Accountant)、バクスター・クレジット・ユニオン(Baxter Credit Union)、エンジン(Engine)、フォーミュラワン(Formula 1)、シカゴ大学医学部(UChicago Medicine)、ゼロ(Xero)の名が挙がります。選定パイロット向けの提供は始まっており、一般提供(GA)は2026年冬(Winter 2026)の米国リージョンを想定しています。
| 公表されている説明 | こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| ネモトロン3スーパーを合成データで後学習。顧客データ未使用。14業種超(PR/製品) | 合成シナリオの件数・生成手順の詳細公開 |
| SFT+GRPO。ネモ・アールエル/ネモ・ジム/ネモ・オートモデル(PR)。基盤は120B(arXiv) | 学習計算資源、評価の再現手順 |
| CRM Benchで先行モデル並み以上、誤りが3分の1(PR/製品。自社ベンチ) | 比較対象モデル名、タスク数、第三者再測定 |
| 既定の一般向けモデル比で、正しいアクション呼び出し精度+11%、顧客コンテキスト想起の信頼性2.1倍、長いやり取りの文脈保持+15%(製品。自社測定) | 分母・計測期間、失敗時の人手介入率 |
| 多ターンツール利用が最も伸び、強い非公開(専有)の比較対象超・最前線の最強モデル未満(arXiv要旨) | 論文本文の数値表の独立再集計 |
| 重みは自社管理。推論はトラスト境界内。温度0。サービング・ハーネス(製品FAQ) | 読者環境での同構成の再現手順 |
| 導入はマネージドLLM/組織全体の提供者/ビルダー単位(製品) | 価格、トークン上限、日本リージョンの時期 |
| 社内利用と6社パイロット。GAは2026年冬・米国(PR/製品) | パイロットの定量成果、日本向け提供時期 |
受託SaaSのオンボーディングでは、初期設定や権限付与の手順を短いツール呼び出しの列に分け、モデルは信頼境界内のマネージドLLMとして置き、最終の例外対応は人が承認します。卸の受発注では、在庫・納期・与信の参照順を合成シナリオで先に揃え、本番データは推論時だけ渡します。自治体の窓口案内や、BtoBメーカーの保守受付では、長い多段階の下調べだけを機械に寄せ、最終判断は人が行います。
顧客データを学習に入れず合成シナリオで後学習し、推論は自社の信頼境界内に置き、温度を固定して応答のばらつきを抑え、最終判断は人が行います。