台湾のゴゴロ(Gogoro)は、パワーアリーナ(PowerArena)のAIビジョンを使い、電動スクーターの組立で手順どおりかを駅ごとに見ています。製造実行システム(MES)と無人搬送車(AGV)のOKと揃うまで、次の駅へ進みません。
パワーアリーナ公開の対談(2023年5月)で、ゴゴロのスマートファクトリー基盤責任者チャーリー・ファン(Charlie Huang)が導入の経緯を話しています。アドバンテック(Advantech)の事例(2024年3月)も、同じ現場のAIビジョンを補足しています。
ゴゴロは、電動スクーターを組み立てる工場で、早い段階からMESを入れていました。機械の動きや工具の締め付け値など、取れるデータは履歴に残ります。それでも、人が正しい順序で作業したか、指定の工具を使ったか、左右の人が同時に進める共同作業を守ったかは、MESだけでは追えませんでした。
現場には、外国人労働者、学生、地元スタッフが混在します。入れ替わりも多く、教育だけでは手順のばらつきが残りました。出荷後、数週間以内に工程起因の不具合が出ることもありました。従来は問題が起きたあと、カメラ映像を巻き戻して原因を探しており、その場では止められません。
そこでゴゴロは、パワーアリーナのAIビジョンをキーとなる作業駅に載せ、対談時点で18駅です。駅では、カメラ映像から手順の抜け、順番の誤り、工具の使い方などを見ます。パワーアリーナの事例ページは、リアルタイムの標準作業手順(SOP)逸脱アラート、映像から見た作業いちサイクルの時間(サイクルタイム)、高リスク時の即時停止を挙げています。
搬送はベルトコンベヤではなく台車型のAGVで、各車両が駅を回ります。MESがトルクや試験の数値(パラメータ)などの「OK」を受け取り、かつAIビジョンが手順を確認するまで、AGVは次へ進みません。左右並列のステアリング周り組立では、以前はMESが左右を別々に見ていました。AIビジョン導入後は、二人の共同作業を映像で同時に確認できます。
不具合を駅の出口で止める考え方は、工程内品質管理(IPQC)です。ファン氏にとって、AIビジョンはこの考え方を現場の動作に落とす手段です。アドバンテック事例では、封止の前にオイルを塗るなど、あとから見えなくなる工程を映像で検証する例もあります。推論にはGPUサーバ(SKY-6系)を使います。
効果について、ファン氏は社内データを見たうえで、当該18駅に紐づく市場側の保証請求がゼロまで減った、と言います。工場全体のゼロや、すべての駅の保証請求ゼロ、という意味ではありません。パワーアリーナの事例ページには「一度で工程を通る割合(first-pass yield)が100%」ともあります。こちらはベンダー側の表現です。ファン氏の保証請求の説明と、数字の取り方が同じかは、公開資料だけでは揃いません。
駅の選び方では、故障モード影響解析(FMEA)を使いました。走行不能やブレーキ力など、起きると重いが現場では見つけにくい項目を優先しています。海外の委託組立へ広げるときも、言葉や背景が違う作業者に同じ手順を守ってもらう基盤にしたい、という意図もあります。
| 公表されている説明 | こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 主要駅にAIビジョン。対談時点で18駅(パワーアリーナ対談) | 18駅の工程一覧と対象モデルの公開表 |
| MES+AIの両方がOKになるまでAGVが次へ進まない(同) | 停止回数・平均停止時間の独立ログ |
| 左右並列の共同作業を映像で同時確認(同) | 共同作業駅の誤検知率 |
| 当該18駅の市場保証請求がゼロまで減少、とファン氏(同) | 第三者監査と、比較期間・母数の全文 |
| 高リスク時は駅で停止。映像再生で原因確認(事例頁/対談) | アラート精度の独立測定 |
| 封止前オイル塗布など隠蔽工程を検証。GPUサーバで推論(アドバンテック) | ハードウェア構成の公開BOM |
| 「100% first-pass yield」との記載(パワーアリーナ事例頁) | ファン氏の保証請求ゼロと同一指標か |
医療機器の組立、厨房機器の最終配線、家具の隠しビス締めなど、記録は残るが人手の手順抜けが出荷後に効く現場があります。駅の通過条件に、映像での手順OKを足す、という使い方がここにあります。
キー駅で映像の手順OKとMESの数値OKが揃うまでAGVを止め、左右の共同作業も同時に見ます。駅の選定は、起きると重いが現場では見つけにくい項目をFMEAで優先します。