オーストラリアのMMGは、クイーンズランド州のダガルド・リバー(Dugald River)選鉱所で、ハッチ(Hatch)のAIPC(AI-Assisted Process Control)を使い、亜鉛の浮選目標値を閉ループで動かしています。質量収支とニューラル網で作ったプロセスのデジタルツインが、短い周期でネット精鉱価値(NSR)を見ながら、16個の目標値を制御層へ返します。
MMG公式(2026年7月20日)とハッチ(2026年7月30日)が、稼働から1年を報じています。MetPlant 2026の技術論文が、設計・導入・試験の中身を詳しく書いています。
ダガルド・リバーの選鉱所は、2017年から稼働しています。亜鉛の粗選・掃選(rougher-scavenger)は、すでに高い回収率まで改善が進んでいました。論文では、2024年の粗選・掃選回収は97.1%です。これ以上伸ばすには、フィードの品位・粉砕粒度などが時間帯で変わるたびに、空気量・薬液の一種(捕収剤)・泡深さ・活性化剤・pHなどの目標値を揃え直す必要があります。交代ごとに合わせ方がずれると、同じ原料でも結果がぶれます。
従来のルールベースや線形のモデル予測制御では、多変数の関係や、フィードの性質が変わるたびに操作してよい範囲(運転の窓)も動くことを十分に表せません。そこでサイトは、制御に組み込んだプロセスデジタルツインを選びました。
ツインの中核は、粗選と掃選を結んだ多変量モデルです。質量収支とニューラル網を組み合わせ、鉱石の性質など上流条件(ジオメタ)や粉砕条件、オペレータが触る操作変数から、品位と回収の位置を推定します。そのうえで、ネット精鉱価値の式に通し、短い間隔で目標値の組を更新します。
出力は制御層へ直接入り、対象は浮選の目標値16個です。オペレータは、ツインに任せる範囲を画面から指定できます。モデルの確からしさがしきい値を下回ると、制御は人手側へ戻ります。
2025年1月に閉ループ稼働を始めています。稼働後2か月の利用率は90%を超えました。執筆時点の年間累計は約75%です。モデルはおおむね6〜8週ごとに再学習・再投入し、オペレータが内側の操作窓を調整できる仕組みも後から足しています。
効果の数字は、経路で少し分かれます。ハッチのAIPC製品ページでは、すでに97%超の回路で亜鉛回収が0.5%改善しています。地方紙ノース・ウェスト・スター(North West Star)も同じ0.5%を報じています。投資回収は稼働後3か月未満だった、とMMG公式とハッチの1年報にあります。MetPlant論文のランダム化ブロック試験(2025年8月開始、オン/オフ、175シフト)では、粗選・掃選の亜鉛回収が+0.53%、統計の確かさは95%超でした。フィードの亜鉛品位と、合わせた精鉱品位には統計的な差はありませんでした。正式な評価は執筆時点で続いています。
ゼネラルマネジャーのティム・アクロイド(Tim Akroyd)は、常時オンの助手のようにプラントの動かし方を調整し、処理する鉱石1トンあたりの亜鉛を増やす、とMMG公式で語っています。上級の冶金担当(シニアメタラージスト)のアレック・マルコム(Alec Malcolm)は、「これまでのベンチマークを超えた」「目標に合わせて柔軟に仕立てられる」と言います。
| 公表されている説明 | こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 2025年1月に亜鉛粗選・掃選で閉ループ稼働(論文/MMG) | 第三者による監査報告書の全文 |
| 目標値16個を制御層へ直接最適化。オペレータが任せる範囲を指定(論文) | 16個の変数一覧の公開仕様 |
| 質量収支+ニューラル網の多変量モデル(論文) | 学習データの生データと評価プロトコルの外部公開 |
| 稼働後2か月の利用率90%超。執筆時点の年間累計 約75%(論文) | 利用率定義の独立再計算 |
| 回収+0.5%(製品頁・地方紙)。ランダム化試験で+0.53%・95%超の統計的確かさ(論文) | 正式評価完了後の最終数値と第三者再現 |
| 投資回収は稼働後3か月未満(MMG/ハッチ) | 投資額の内訳と感度分析の公開 |
| 確からしさ低下時は人手へ引き継ぎ。6〜8週の再学習(論文) | 引き継ぎ回数と停止時間の独立ログ |
化学プラントの反応器、食品の連続加熱、小さな塗装ラインなど、原料の性質が時間帯で変わり、目標値の合わせ方が人によってずれる現場があります。多変数の目標値を経済指標つきで揃え、モデルの確からしさが落ちたら人手に戻す、という使い方がここにあります。
フィードが変わるたびに目標値を揃え直し、モデルの確からしさが落ちたら人手へ戻す閉ループです。オペレータは任せる範囲を指定し、多変数をネット精鉱価値つきで動かします。