エヌビディア(NVIDIA)は、表形式データの分類と回帰向けのオープン基盤モデル「クモ・タブラー(Kumo Tabular)」を公開しました。発表は2026年9月29日付のハギングフェイス(Hugging Face)ブログで、著者にはジンガン・ク(Jingang Qu)氏らが名を連ねます。ラベルの付いた行を文脈として渡し、まだラベルのない行の予測を、学習し直さず一度モデルを通す計算(前向き計算)で1回返します。タスクごとの再学習や特徴量の手作業、設定の試し回し(ハイパーパラメータ探索)は不要だと説明しています。TabArenaで総合首位、強さの相対スコア(ELO)1950、LimiX-2と比べて17倍高速といった数字は、いずれもこのブログに書かれたエヌビディア側の評価です。
企業の機械学習では、顧客台帳、取引、センサの記録、請求、受注といった表が中心です。これまで多くは、木を順に足していく予測モデル(勾配ブースティング)で解いてきました。新しい予測の問いが出るたびに、ラベル集め、特徴量設計、探索、検証、配備を繰り返す流れが残りやすい、とブログは背景を述べています。大規模言語モデルが少数の例だけで新しい文書タスクを解く「文脈内学習」と同じ発想を、表にも当てはめるのがクモ・タブラーです。
モデルは、文章や表の並びをまとめて扱う仕組み(トランスフォーマー)で動きます。セルをモデルが読む単位に分け(トークン化)、数値とカテゴリは波の成分で数を表す手法(フーリエ特徴)などで埋め込みます。欠けた値は特別扱いし、補完を前提にしません。
続いて、どこを重視して読むかの仕組み(アテンション)を列方向と行方向で交互にかけ、行の要約を作ります。
最後の段では、ラベル付きの文脈行どうしと、未知のクエリ行から文脈行への参照により予測します。文脈はクエリを見ないため、キーと値を一度計算して再利用できます。分類ではクラスの確率を、回帰では999個の分位点(quantiles)から点推定と不確かさの目安を出します。
事前学習は人工の表だけです。表の仕組みを手順で作るモデル(構造因果モデル)から表の大きさや仕組み、欠け方を手続き的にサンプルし、木をいくつも重ねた予測器(木アンサンブル)で学べる信号がない表は捨てます。Small/Medium/Largeはおよそ2800万/1.15億/2.15億パラメータで、それぞれ約3500万/7100万/1.37億枚の人工表を見た、とします。訓練は行数を段階的に伸ばし、最終段では最大6万行・最大100列まで扱います。分類用と回帰用は別モデルです。
公開物はコード(GitHubのNVIDIA/structured-data-models)と重み(ハギングフェイスのnvidia/Kumo-Tabular)です。ライセンスはOpenMDW-1.1で、商用利用ができると書かれています。ライブラリは前処理やアンサンブル、多クラスへの拡張を含みます。分類の1パスは最大10クラスで、それ以上は誤りを直せる符号でクラスを増やす(誤り訂正符号)により、ライブラリ側が拡張します。
評価の中心はTabArenaです。調整済みの勾配ブースティングやAutoGluon、他の表形式基盤モデルを含む同ベンチで総合首位、ELO 1950とします。同じ単一のRTX 6000 Pro上の均一評価では、LimiX-2より17倍高速だとします。他ベンチでも首位側、と同ブログです。
制限も同ブログにあります。対象は数値列とカテゴリ列です。テキスト、画像、タイムスタンプは、用意された前処理で特徴に直します。訓練で見た規模を大きく超える表や、文脈行とクエリ行の分布がずれる場合は精度が落ちうるため、自前の控えデータで精度と当たり具合のずれ直し(校正)を確かめよ、と書いています。
| 公表されている説明 | こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 2026-09-29、Hugging Face BlogでKumo Tabularを公開 | 第三者によるTabArena等の再測定 |
| ラベル付き行を文脈に、未知行を1回の前向き計算で予測。再学習・チューニング・特徴量設計なし(同) | 実業務データでの誤分類率・校正曲線の公開値 |
| 人工表のみで事前学習。約28M/115M/215M。見た表約3500万/7100万/1.37億(同) | 人工生成器の完全な公開物(「近日公開」と記載) |
| TabArena首位・ELO 1950。LimiX-2比17倍高速(単一RTX 6000 Pro)(同) | 他GPU・他バッチ条件での同じ倍率 |
| BeyondArena首位(ELO 1418、まだ伸ばせる余地の指標(Improvability)7.78%)。TALENTは分類精度・分類対数損失・回帰RMSEで総合トップ、平均順位6.67/3.98/4.22。ScoringBenchでLarge/Mediumが平均順位1位/2位(同) | 各ベンチの生スコア表の独立再現 |
| 数値・カテゴリ中心。1パス最大10クラス。分布ずれに注意。ホールドアウト検証を推奨(同) | 日本語業務表や小規模店舗データでの公開検証 |
首位や17倍高速は、エヌビディアが自らの評価設定で示した数字です。独立した第三者の再測定はありません。制限事項は同ブログに書かれており、適用前に自前データでの確認が前提です。
従業員100〜200人規模の卸では、過去の受注行を文脈に、翌週の需要だけを予測し、結果を控えの週で当てはめてから発注に使います。接骨院や整形外科では、レセプトや来院の表から再来の見込みを出し、予約枠の余裕を見る材料にします。ビジネスホテルや旅館では、過去の予約とキャンセルの行を文脈に、直近の空室リスクだけを短く出し、料金担当が上書きします。商店街の共同仕入れでは、品目と天候・イベント列をそろえた表で欠品の見込みを出し、自動確定せず確認リストに載せます。
ラベル付きの行だけを渡し、未知行の予測を一度の計算で出します。ベンチの首位や速度は公開側の評価として残し、数値・カテゴリ以外や分布のずれがある表では、自前の控えデータで当たりを確かめてから使います。