米国の医療ソフト会社エムエイチケー(MHK)は、医療保険の審査業務で使うAI機能を、一つの共通基盤にまとめました。エムエイチケーは、メディア大手ハーストの医療部門であるハースト・ヘルス(Hearst Health)の傘下です。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が2026年9月30日に技術ブログで事例を公開しました。
基盤の名前は「スマートプロミネンス・AIオーケストレーター(SmartProminence AI Orchestrator)」です。ここでは、工程の順番を決める仕組み、という意味です。暗号化や監査の記録、誰が何に触れるかの権限は、基盤がまとめて持ちます。新しいAI機能は、指示文(プロンプト)と、受け取る形・返す形を設定して登録するだけで足せます。
事例記事によると、届いた書類の取り込みは1件5〜10分から1分未満になりました。この1分未満は、人が確認する手順を含んだ数字です。新しいAI機能を出すまでの期間は、3〜6か月から約2週間に縮んだとしています。
エムエイチケーは、米国の医療保険者に審査業務のソフトを提供しています。対象は、治療の前に保険が使えるかを決める事前承認、請求の審査、加入者からの不服申し立て、薬の給付の確認、医師(メディカルディレクター)による審査です。どの業務でも、臨床の記録、検査結果、何ページもあるファクスを、保険の基準と突き合わせます。
導入前は、届いた書類1件の処理に、担当者が5〜10分かけていました。AI機能を一つ足すたびに、専用の仕組みと、米国の医療情報保護の法律HIPAAに沿った確認を、一から用意する必要もありました。開発には、要件を決める期間を除いて3〜6か月かかっていました。
そこで、AIの機能ごとに仕組みを作るのをやめました。AIモデルの呼び出しには、AWSの「アマゾン・ベッドロック(Amazon Bedrock)」を使い、工程の中ではアンソロピック(Anthropic)の「クロード(Claude)」を呼びます。工程の順番、書類の検索、出力の検証は、自社で作っています。
書類は、決めた順番の工程で処理します。たとえば最初の段で、患者の基本情報と請求の履歴を同時に抜き出します。次の段で、当てはまる保険の基準を探します。その次の段で、基準ごとに、満たしていることを示す記録をカルテから集めます。薬が関係しない案件なら、薬の確認の工程は飛ばします。
AIの答えは、そのまま使いません。決めた形に合っているかを確かめ、抜き出した内容を元の書類と照らして、AIがありもしない内容を書いていないかを調べます。自信の低い答えは捨てます。その患者本人の記録だけを見ているかも確かめます。
情報の守り方も、基盤側で決めています。顧客の保険者ごとに暗号の鍵を分け、工程ごとに、使えるデータの範囲を絞った許可証をその都度発行します。一度分析した30ページのカルテは、数週間後の不服申し立ての審査でも、読み込み直さずに使えます。
左の列は、AWSの事例記事(2026年9月30日公開)と、エムエイチケーの製品ページ・発表に書かれている内容です。
| 公表されている説明 | こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 手作業の審査の負担が90%減った | 何件の案件を、どの期間で測ったか |
| 書類の取り込みが、1件5〜10分から1分未満(人の確認つき)になった | 人の確認で直した件数と、抜き出しの正確さ |
| 医師の審査は、書類探しの数時間から、30秒で承認か却下を決める形になった | 30秒の判断で見落としが増えていないかの検証 |
| 新しいAI機能の展開が、3〜6か月から約2週間(85%短縮)になった | 2週間に含まれる作業の範囲と、実際に足した機能の数 |
| 新しい機能は認証済みの基盤の中で動くため、機能ごとの認証は要らない | 監査する側が、この扱いをどう評価しているか |
| HIPAAと、外部監査の報告枠組みSOC 2の証明を、基盤単位で一つにまとめた | 証明の範囲と時期 |
| 製品ページは、入出力をすべて記録し、たどれると書く。AWSの事例記事では、監査のためにAIの入出力を記録する、という記述と、要求と応答の本文は記録せずトークン数とハッシュ値だけ残す、という記述が並ぶ | 実際に何を、どこまで記録しているか |
| 事前承認のファクス取り込みは、2026年第1四半期から顧客へ提供する予定(2025年12月3日の発表) | 提供が始まった時期と、利用している保険者の数 |
数字は、エムエイチケーとAWSが示したものです。この記事を書く時点(2026年10月5日)では、第三者による測定は見つかっていません。
社会保険労務士の事務所では、顧問先ごとに給与や雇用契約の書類を預かります。顧問先ごとに鍵を分け、作業の記録は共通の仕組みにまとめておけば、「届出書類の抜け確認」のようなAIの作業を、設定で一つずつ足していけます。
従業員100〜200人規模の人材派遣会社では、派遣先ごとに契約書や就業条件の書類が届きます。AIが抜き出した条件を元の書類と照らす手順を先に決めておけば、最後の判断を担当者が持ったまま、確認の手間を減らせます。
測定した件数と、抜き出しの正確さは公表されていません。