三菱UFJ銀行は、海外の支店ごとに違う事務の手順をそろえる準備に、生成AIを使っています。手順書から業務フロー図を作らせると、最初は手順書にない手順が入り、使えませんでした。そこで、業務の言葉と、その間の関係を先に決め、AIにはその範囲でだけ描かせる形にしました。図を作り、比べ、直す手間は、1支店1手順あたり11人日(1人で11日分の作業)から1人日に減る見込みだと、銀行は話しています。
以下は、銀行の溝口直樹さん(執行役員 国際事務企画部長)の2026年6月の講演を報じたITmediaの記事(同年8月)と、アマゾン ウェブ サービス(AWS)が10月8日に出したブログにもとづく内容です。講演の場はAWSの催しで、AWSは銀行と一緒にこの仕組みを作りました。
三菱UFJ銀行の海外事務は、約30か国で1日約20万件の取引を扱い、3000人を超える人が働いています。件数の86%は送金です。20年あまり海外の事業を広げるあいだに、支店ごとに本店の手順を少しずつ変えた手順ができました。事務をインドの集中センターに集める取り組みも、進んだのは約1割でした。
手順をそろえるには、まず支店ごとの手順をフロー図にし、ほかの支店や本店の手順と比べ、直す必要があります。この準備には、1支店1手順あたり約11人日かかるとされていました。
2025年5月まで、手順書を生成AIに読ませてフロー図を作る試作をしました。図の出来は回ごとにばらつき、元の手順にない手順をAIが黙って足すため、支店どうしを比べても信用できませんでした。何人かで受け持つ事務を「1人」と読み違えることもあった、と溝口さんは話します。生成AIだけで作った図は、使えるものになりませんでした。
溝口さんは、何も教えていない生成AIを、業務の知識をまったく持たない新入社員にたとえます。そこで、AIに描かせる前に、業務を教えるための二つのものを用意しました。
一つは、業務の設計図です。まず生成AIが、本店の手順書を「担当者が・送金を・実行する」のような、「だれが・何を・どうする」の組に分けました。その組を、業務に詳しい行員が見て、誤りを直し、抜けを埋めました。こうして約2万件の組を作り、どの支店にも当てはまる送金手順の形にしました。
もう一つは、支店ごとの手順を、この設計図に当てはめたデータです。アメリカ、イギリス、アジアの大きな支店の手順を入れました。
フロー図を作るときは、AIがまずこのデータから関係する部分を取り出します。描いてよい手順と分かれ道はその範囲に限り、図の一つ一つの手順に、どのデータを根拠にしたかを付けます。
銀行の講演資料では、1支店1手順あたりの手間は次のように減る見込みです。
| 作業(1支店1手順) | 前 | 後(見込み) |
|---|---|---|
| フロー図を作る | 10人日 | 0.5人日 |
| ほかの支店と比べる | 0.5人日 | 0.25人日 |
| 図を直す | 0.5人日 | 0.25人日 |
| 合計 | 11人日 | 1人日 |
比べ方も変わりました。前は1支店と1支店を比べていましたが、今は1支店を複数の支店と一度に比べられます。
手順をどうそろえるかを決めるのは、今も事務の担当者と各地域の関係者です。関係者との話し合いには1件1〜2人月(1人で1〜2か月分)かかり、これは変わりません。AWSのブログによると、2026年3月からは、新しいシステムを受け取る前に確かめる項目づくりにも、同じ仕組みを使い始めました。
| 公表されている説明 | こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 1支店1手順の手間は11人日から1人日に減る見込み(銀行の講演)。AWSのブログは同じ数字を「見込み」とも「前と比べて測った結果」とも書き、比べる・直すは「数分」とする | 実際に測った件数と期間。比べる・直すの後が0.25人日か数分か |
| 生成AIだけの試作は、手順を足したり読み違えたりして、使える図にならなかった | 誤りがどのくらいの割合で出たかの数字 |
| 設計図とデータの範囲でだけ描かせ、根拠を示す(AWSのブログ)。2025年6月以降は、生成AI自体の向上も重なって図の精度が上がった(銀行の講演) | 精度の改善のうち、設計図とデータによる分と、生成AIの向上による分の内訳。本番での誤りの数 |
| 設計図は約2万件の組で、業務に詳しい行員が直して作った(銀行の講演) | 作るのにかかった人手と期間(手間の表には入っていない) |
地方の葬儀社で、宗派ごとに違う式の段取り表を生成AIで作る場合が考えられます。先に、宗派、役割、道具の名前と、「だれが、何を、どうする」の関係を一覧にしておきます。AIにはこの一覧の言葉だけで段取りを書かせ、各行の根拠を示させれば、その宗派にない作法をAIが足しても、人が見つけやすくなります。
三菱UFJ銀行は、生成AIに業務フロー図を描かせる前に、業務の言葉と「だれが、何をするか」の関係を業務に詳しい行員と決め、その外の手順は描かせない形にしました。11人日から1人日は銀行の見込みで、測った件数と期間、生成AI自体の向上による分は示されていません。