スイスの雪・雪崩研究所(WSL Institute for Snow and Avalanche Research SLF、以下SLF)は、冬の間、毎日、雪崩の危険度を出しています。SLFは、20年分の気象と積雪の記録で学ばせたAIに、乾いた雪の雪崩の危険度を出させました。2020〜21年の冬に、予報には使わずに試したところ、AIの危険度は、公表した危険度と約70%で一致しました。翌冬からは、予報官がAIの答えを「もう一つの意見」として見ています。以下は、SLFの研究者が2025年4月に自然災害の学術誌「NHESS(Natural Hazards and Earth System Sciences)」に出した論文と、2024年4月のSLFのお知らせにもとづく内容です。
スイスでは、雪崩は最も多くの命を奪う自然災害です。SLFは冬の間、毎日17時に翌日までの雪崩の危険度を出します。山に入る人や、道路や集落を守る役所が、これを判断に使います。これまでは、予報官が、気象の予報、観測、積雪の計算の結果、現地からの報告を読み合わせて決めてきました。
2019年、SLFは、スイスのデータ科学の研究拠点(Swiss Data Science Center)と組んで、AIづくりを始めました。山の上の100か所を超える自動の観測所で測った20年分の気象と、それをもとにした積雪の計算の結果を、機械学習のモデル(ランダムフォレスト)に学ばせました。答えにしたのは、公表した危険度ではなく、あとから確かめ直した危険度です。公表した危険度を答えにしたモデルも作りましたが、こちらは、人が慎重に高めに出す傾向まで映します。予報官が試すことにしたのは、確かめ直した危険度で学んだモデルです。モデルは観測所ごとに、3時間おきに危険度を1〜4で出します。いちばん上の5は、学ばせるときに4にまとめました。
2020年12月末から2021年5月まで、モデルを本番と同じ流れで動かしました。ただし予報には使わず、結果を見るのは決まった予報官1人だけでした。
左は論文とSLFのお知らせの説明です。
| 公表されている結果 | こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 138日の試験で、予報が危ないとした高さと斜面の向きに当たる観測所では、AIの危険度は、公表した危険度と平均で約70%一致した(平地と斜面の向きによって66〜74%)。その範囲を外れる観測所では、一致はもっと低かった(南向きの例で、高さだけ外れると54.5%、高さも向きも外れると19.6%) | 一致しなかった日に、どちらが正しかったか(論文も、AIの誤りか、人が慎重に出したのかは分けられないとしている) |
| 食い違ったときは、ほとんどが1段階の違いで、AIのほうが低めに出すことが多かった | 予報官が、AIを見て危険度を変えた回数 |
| 雪が降っている間はよく合い、古い積雪の中に弱い層が残るところや時期は合いにくかった。弱い層があるときは、AIの危険度が公表した危険度より早く下がった | 新しい作り方(地域ごとに危険度を出すモデル)の成績 |
| 2021〜22年の冬から、予報官全員がAIの答えを見られるようになった。予報官は、役に立ち、もっともらしいと見ている。2023〜24年の冬には、機械学習のモデルの見立てが、危険度を決める話し合いにいつも加わるようになった | AIを使い始めて、予報の当たりがよくなったか。2023〜24年の冬の話し合いに加わったのが、どのモデルか |
AIは人と同じ観測や計算の結果を使いますが、現地からの報告は使いません。予報官の一人は、AIは自分たちとは違う間違え方をする、と話しています。大きく食い違ったときは、予報官が自分たちの判断を見直すきっかけにします。
漁協で、毎朝、船を出すかどうかを決める仕事に当てはまります。過去の風や波の記録と、あとから見てその日に船を出せたかどうかを組み合わせてAIに学ばせれば、担当者の判断の横に、もう一つの見立てを置けます。まず一つの季節は判断に使わずに並べて動かし、どれだけ一致するか、どんなときに食い違うかを数えてから、使い始められます。
スイスのSLFは、20年分の記録で学んだAIに雪崩の危険度を出させ、まず一冬、予報に使わずに、公表した危険度と並べました。約70%で一致し、食い違うときはAIが低めに出すことが多く、古い積雪に弱い層が残るときは合いにくいと分かりました。いまは予報官が「もう一つの意見」として見ていますが、一致しなかった日にどちらが正しかったか、予報がよくなったかは示されていません。