ニュージーランドのテ・ヒク・メディア(Te Hiku Media)は、マオリ語で放送してきた小さな非営利のラジオ局です。許しを得て集めた自分たちのデータだけで、マオリ語と英語の音声認識を作り、書き起こしサービス「カイトゥヒ(Kaituhi)」で使っています。母語の話者などの声で作った自前の試験用の音声で測ると、単語の誤りの割合は、最初の版の27%から10%に下がりました。以下は、同局の職員が2024年12月の国際学会「NeurIPS」で出した論文と、同局のウェブサイトにもとづく内容です。
同局には、何十年も前のラジオ番組で録った、お年寄りへの聞き取りなどの古い録音がたくさんあります。数千時間の録音を電子化したあと、2017年に、母語の話者の聞き取りを書き起こす小さな企画を始めました。ところが、手で書き起こすのは手間がかかりすぎて、たくさんの古い録音を文字にするには別の方法が要りました。そこで、2018年に資金を得て、コンピューターにマオリ語を教える企画を始めました。この企画から、自前の音声認識と、それを使う書き起こしサービス「カイトゥヒ」が生まれました。
世の中には、多くの言葉を扱う公開された音声認識もあります。それでも同局は、許しを得て集めたデータだけを使うという考えから、自前で作ると決めました。最初の版は、モジラ(Mozilla)の仕組みで作り、地域の人たちの協力で集めた約400時間の声で学ばせました。いまの版は、マオリ語とニュージーランドの英語の二つに対応し、自分たちのデータだけで一から学ばせています。
新しい版に向けては、母語の話者の響きを学ばせるため、古い録音を人が書き起こしてデータを作りました。一人が書き起こし、言葉にくわしい職員が見直します。聞き取りにくいところは、二人で話し合って決めます。
腕前を測るため、同局は自前の試験用の音声「テ・タウマタ(Te Taumata)」を作りました。1930年より前に生まれた母語の話者4人の声を中心に、新しい世代の話者(大人になってから学んだ人や、幼いころからマオリ語で育った人)、ニュージーランドなまりの英語、二つの言葉が混ざる地域の集まりの話し方を含みます。新しい版は、この物差しで前の版と比べ、オープンAIの「ウィスパー(Whisper)」など公開されたモデルとも比べます。
左は同局の論文とウェブサイトの説明です。
| 公表されている説明 | こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 自前の試験用の音声で、単語の誤りの割合は、最初の版の27%から10%に下がった | 27%と10%をそれぞれ測った時期。外の人が同じ結果を出せるか |
| 母語の話者の声での成績は、版を重ねるごとによくなった。その代わり、新しい世代のうち幼いころからマオリ語で育った話者と、二つの言葉が混ざる話し方では、成績が少し落ちた | 落ちた幅(論文では図だけで、数字の記載はない) |
| 同局は、この落ち方を受け入れている。母語の話者の声を文字にすることを、最も大事にしているため | カイトゥヒでいま動いているのが、どの版のモデルか |
| カイトゥヒは、部族のラジオ局の字幕づくりのために作られ、古い録音の目録づくりと検索にも使える | 書き起こしにかかる時間がどれだけ減ったか |
同局は、公開されたモデルを自分たちで調整して試したこともあります。2023年1月の同局のブログによると、ウィスパーを、自前で書き起こした約125時間の音声で調整しました。ただ、ウィスパーの学びに使ったマオリ語の音声がどこから来たのか示されていないことと、自分たちのデータの使い方の決まりに合わないことから、本番では使わないと決めています。
地方の議会や町内会で、方言の多い会議の録音を文字にする仕事に当てはまります。まず、地元の人の声を手で書き起こして答え合わせ用に取っておけば、公開されたモデルや、売られている文字起こしを、そのまま使うか、調整するかを、同じ物差しで決められます。どの話し手の声をいちばん大事にするかを先に決めておけば、成績が上がる人と落ちる人が出たときにも選べます。
テ・ヒク・メディアは、許しを得た自分たちの声だけで音声認識を作り、書き起こしサービスで使っています。母語の話者を中心にした自前の物差しで測ると、単語の誤りの割合は27%から10%に下がりました。その代わり、新しい世代の一部の話者などでは成績が少し落ちましたが、同局は母語の話者の声を優先し、これを受け入れています。数字はすべて同局自身の論文によるものです。