デンマークのコペンハーゲン救急医療サービス(Copenhagen Emergency Medical Services)は、救急番号112の通話を聞いて、心臓が止まった疑いを見つけるAIを試しました。AIが疑いを見つけたら、受付係の画面に合図を出します。この合図が受付係の判断を本当に助けるのかを、2018年9月から2019年12月まで、くじで分けた試験で確かめました。AI単独では受付係より多くの心停止に気づきましたが、合図を見た受付係が気づく割合には、はっきりした差は出ませんでした。以下は、2021年1月に医学誌「JAMAネットワーク・オープン(JAMA Network Open)」に載った論文と、試験の登録情報にもとづく内容です。
病院の外で心臓が止まった人を助けるには、電話の受付係が早く気づき、電話の向こうの人に胸を押すやり方を伝えることが大事です。ところが論文によると、救急の受付係は一般に、こうした心停止の約25%を見落としています。
そこで、コペンハーゲン救急医療サービスは、通話の声を文字にする仕組みと、機械学習のモデルを組み合わせました。モデルは話の中身から心停止の疑いを見つけ、受付係の主な画面に目立つ合図を出します。合図は受付係の作業のじゃまをしない作りです。過去の通話を使った前の研究では、このモデルは受付係より多くの心停止に気づき、外れは少しだけ多くなりました。
試験の期間に、AIは16万9049件の通話を聞き、そのうち5242件を心停止の疑いとしました。この5242件を、くじで「受付係に合図を出す」2581件と「出さない」2661件に分けました。合図が出ないかぎり、受付係には、その通話でAIが動いているかどうかは分かりません。あとから心停止の記録とつないで、本当に心停止だった通話を確かめました。合図ありは318件、合図なしは336件です。
左は論文の数字です。
| 公表されている結果 | こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 本当に心停止だった通話で、受付係が気づいた割合は、合図あり93.1%、合図なし90.5%。差は偶然の範囲を出なかった | 合図が出たのに受付係が従わなかった理由の詳しい中身 |
| 気づくまでの時間は、どちらも平均で約1.7分で、ほぼ同じだった | その後の命が助かった割合への影響(この試験の目的の外) |
| AIが聞いた通話全体(本当の心停止は1110件)では、AI単独のほうが受付係より見落としが少なかった(気づいた割合85.0%対77.5%) | いまの運用でAIを使い続けているか |
| ただしAIの合図は外れが多く、AIが心停止と見た通話のうち本当に心停止だったのは17.8%。受付係が心停止と見た通話では55.8% | 外れの合図が受付係の手間をどれだけ増やしたか |
論文は、AIが人より多くの心停止に気づいても、受付係の気づきにははっきりした改善が見られなかった、と結論づけています。受付係が合図に従わなかったとみて、受付係への訓練と、外れの合図を減らすことを次の課題に挙げています。あとからの計算では、合図を出した通話で受付係が合図どおりに動いていれば、さらに22件の心停止に気づけたとしています。
自治体の消費生活センターや役所の相談窓口で、急ぎの相談(詐欺のさなか、命に関わる話など)を聞き分ける仕事に当てはまります。会話を聞いてAIが合図を出す仕組みを入れるなら、合図を見せる日と見せない日を分けて、職員の対応が本当に変わったかを数えてから、広げるかどうかを決められます。
コペンハーゲンの救急電話では、AIは受付係より多くの心停止に気づきましたが、合図の多くは外れでした。合図を見せても、受付係が気づく割合にはっきりした差は出ず、人が合図をどう使うかが課題として残りました。