アメリカ・ワイオミング州にある風力発電所「トップ・オブ・ザ・ワールド(Top of the World)」では、2018年8月から、飛行中の鳥をカメラで検知し、AIがそれがワシかどうかを判断して、衝突の危険がある場合は自動的に風車を停止させるシステム「アイデンティフライト(IdentiFlight)」を導入しています。このシステムの効果は、研究によって見解が分かれています。
鳥の保護団体「ペレグリン基金」などの研究者は2021年に、人による監視が行われていた時期と比較して、近隣の発電所の変化を調整した結果、ワシの死亡率が82%減少したと発表しました。しかし、米国地質調査所(USGS)の別の研究者は2023年に、統計的な手法を見直すと約50%の減少にとどまり、場合によっては増加していた可能性も否定できないと指摘しています。以下に紹介する内容は、これらの研究論文に基づいています。
何が起きたのか
発電所を運営するデューク・エナジー(Duke Energy)は、ワシの死亡に関する米司法省との2013年の合意を受け、2014年から人による監視員が風車を停止させる措置を実施していました。2018年8月からは、この作業を自動化するシステムを段階的に導入し、2019年8月までに全設備に適用しました。
「アイデンティフライト」は、高さ約7〜10メートルの塔に設置されたカメラ装置です。円形に配置された8台の広角カメラで動く物体を検出し、高解像度カメラがその物体に向けて距離を測定しながら1秒間に10枚の画像を撮影します。約1000メートル以内の物体を「ワシ」か「それ以外」に分類し、衝突のリスクがある場合は、該当する風車のブレードの向きを変えて回転数を低減させます。カリフォルニアでの実証実験に関する論文によれば、識別方法には、サイズや色などの特徴に基づくものと、既知の画像データで学習したニューラルネットワークの2種類があります。
「トップ・オブ・ザ・ワールド」には、110基の風車に対し47台の装置が設置されました。研究チームは、約15キロ離れた同企業の別の発電所(66基、停止措置なし)を比較対象としました。2014年から2019年にかけて確認されたワシの死体は、導入した発電所で35件(うち導入後3件)、比較対象の発電所で11件(うち導入後4件)でした。
何が変わったのか
| 研究 | 公表された結果 | 残された課題 |
|---|---|---|
| 2021年(ペレグリン基金など) | 発見確率などで補正した結果、導入した発電所でのワシの死亡は63%減少し、比較対象では113%増加。差引で82%減少 | 導入後の期間が2019年12月までと短く、対象が1か所のみ。減少率は人による監視時代との比較 |
| 2022年(同研究者の再分析) | 85%減少(信頼区間は12〜100%) | 同一研究者による追加データ解析 |
| 2023年(USGSの別研究者) | 年次変動の無視、単一地点・単年の効果主張、42件中7件の未分析などを補正すると約50%減少。範囲は「159%増加」から「89%減少」まで | 同誌に元研究者の反論が掲載され、結論は出ていない |
| 2023年(カリフォルニア・マンザナ発電所、2018年6月〜2019年6月) | ワシの77%、非ワシの85%を正しく識別。停止指示は非ワシに5439回、ワシに850回。ブレード回転域に入ったワシへの指示は13回(全体の1%未満) | 実際に停止した場合の死亡減少効果は不明 |
カリフォルニアで誤検知が多かった主な要因は、ワシと誤認されやすいワタリガラスの多さです。南カリフォルニアの砂漠地帯では、冬季のワタリガラスの個体数がイヌワシの140倍以上であるという調査結果が論文で引用されています。試験中にニューラルネットワークを追加すると、非ワシへの誤指示は減少しましたが、ワシの見逃しが増加しました。論文は、初期の大きさ・色ベースの判定のみの方が、複合方式と同等かそれ以上の性能を示したとしています。また、風車が停止するまでの時間は、ワイオミングの一部の風車でおよそ20秒、マンザナで約60秒と差があり、これが効果に影響を与えると研究者は指摘しています。
2021年の研究には、「アイデンティフライト」社からの資金提供がありました。一方、カリフォルニアの研究著者は、利益相反がないことを明記しています。
誰に関係するのか
この事例は、従業員100〜200人規模の太陽光発電所の保守会社など、草刈りロボットがカメラで人や動物を検知して動作を停止する設定を行う場合にも応用できます。誤検知を減らそうとすると、草や影による停止回数が増える可能性があります。導入前に敷地内の人や動物の出現頻度を把握し、許容できる停止回数の基準を設けておくことで、導入後も同じ指標で効果を検証できます。
まとめ
「アイデンティフライト」は、AIを活用してワシを識別し、風車を自動停止させるシステムです。ワイオミングの発電所では、ワシの死亡率が82〜85%減少したとする研究結果がある一方で、USGSの再分析では約50%の減少にとどまり、増加の可能性さえ示唆されています。カリフォルニアでの1年間の試験では、非ワシへの停止指示がワシへの指示の約6倍(5439回対850回)に上りました。研究者たちは、効果が訪れる鳥の種類や個体数、そして風車の停止速度に依存すると考えています。