南カリフォルニア地震観測網(Southern California Seismic Network)は、カリフォルニア工科大学と米国地質調査所が運営する地震の観測網です。小さな地震が起きると、地震計の波から、揺れが届いた時刻を自動で読み取り直す後処理を動かしています。観測網はこの読み取りの部品を、公開されている深層学習のモデル「フェーズネット(PhaseNet)」に替え、2023年11月から本番で使っています。観測網の職員が書いた論文によると、解析担当がまだ確かめていなかった2020年1月の地震1064件にこの後処理を当てて試したところ、476件(45%)は手直しなしで確定できました。
この観測網は南カリフォルニアで地震の情報を出す役目を持っています。自前で400か所を超える地震計を動かし、ほかの観測網の約200か所のデータも受けています。
地震が起きると、まず自動の仕組みが波を読み、場所と大きさを出します。マグニチュード3未満の小さな地震では、数分以内に後処理をかけて読み取りを足したり直したりし、解析担当に渡します。解析担当は読み取りを一つずつ確かめ、最後に地震を確定します。
後処理の読み取りには、1990年代末からの仕組みにある方式を使っていました。波の短い時間の強さと長い時間の強さを比べて、揺れの始まりを見つける方式です。観測網はこの読み取りの部品だけをフェーズネットに替えました。地震の波には、先に届くP波と、あとから届くS波があります。フェーズネットは両方の届いた時刻を読み、0〜1の点数を付けます。
モデルに追加の学習はさせていません。変えたのは、出力を前の仕組みに合わせる部分です。前の仕組みにあった、揺れの最初の向き(初動)を判定する部分を足し、0〜1の点数を、前の仕組みの0〜4の品質の段に置き換えました。
観測網は過去の地震と本番で6回の試験をしました。過去の地震での試験のうち2回は、解析担当がまだ確かめていない地震を新しい後処理で読み、担当がそれをもとに確定しました。そのうえで、前の後処理の読み取りと、担当が確定した答えを並べて比べています。2023年11月8〜17日の本番の試験のあとに前の後処理と入れ替え、そのまま動かし続けています。
読み取りの数は前の後処理の約2倍になりました。増えたのは主にS波です。担当が消したり付け直したりした読み取りの割合は少し高くなりましたが、担当が自分で足した読み取りはずっと減りました。担当の答えとの時刻のずれも少し小さくなり、震央(震源の真上にあたる地表の位置)のずれも小さくなりました。
大きな地震のあとや群発地震のときは、小さな地震が続き、解析担当の確認が追いつかなくなることがあります。2019年7月にリッジクレスト(Ridgecrest)で起きたマグニチュード7.1の地震のあとも、未確認の地震がたまりました。
| 🧰 確かめたこと | 新しい後処理の結果 | 比べた相手 |
|---|---|---|
| 2020年1月の未確認の地震1064件 | 476件(45%)が手直しなしで確定。日ごとには17〜70% | 前の後処理を通したが、手直しが要った同じ地震 |
| よく似た地震32組の確認時間 | 平均約30秒速い | 前の後処理の地震(解析担当1人が確認) |
| 試験3で、担当が確定した震央とのずれ(181件のうち、確定しなかった2件を除く) | すべて約1km以内 | 前の後処理(すべて5km以内) |
出典:論文の本文と図4。
論文は未確認分1064件の試験で「解析担当の数週間分の作業が、1日の勤務時間もかからずに終わった」と書いています。
観測網は、地震にまとまらなかった読み取りの束から地震を拾う処理も新しく作り、2024年11月18日から動かしています。フェーズネットで読み直し、別の機械学習のモデル(GaMMA)で同じ地震の読み取りをまとめます。2024年12月の本番の試験では、地震を含む束72件のうち47件で地震を見つけ、地震のない束1079件のうち78件で誤って地震を作りました。
| 📢 公表されている説明 | ⚠️ こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 未確認分1064件の45%が手直しなしで確定した | 地震がとても多い時期でも同じ割合になるか(論文も今後の確認とする) |
| 1件の確認が平均約30秒速い | 担当全体の作業時間がどれだけ減ったか(測ったのは解析担当1人・32組だけ) |
| 読み取りの数が増えた | 何倍になったか(要旨は約2〜3倍、本文は約2倍と書き、そろっていない) |
| 束から地震を拾う処理で、担当の毎日の作業が速く終わる | 前にあたる仕組みがなく、数字での比べはない |
| 同じ機械で動かして、仕組みの動きに目立つ変化はない | 詳しく測った性能(論文も測っていないとする) |
凡例:📢=当事者が公表している説明 ⚠️=出典に書かれておらず、こちらで確認できていない点
出典:南カリフォルニア地震観測網の論文(Scientific Reports、2025年)
工場やビルの設備保守の会社で、振動や音のセンサーの記録から、異常が始まった時刻を担当者が手で拾い直している技術者にも使えます。まず、その「始まりの時刻を拾う」工程だけを、公開されている学習済みのモデルに替えます。すでに担当者が確定した過去の記録で、いまの方式とモデルを並べ、担当者の答えとのずれを比べます。本番に入れたあとは、たまっている未確認の記録に当てて、手直しなしで確定できた割合を数えます。異常の候補を自動で出す処理を足すときは、見落としの割合と外れの割合の両方を数えてから使います。
南カリフォルニア地震観測網は、小さな地震の波の読み取りを、追加の学習なしで公開の深層学習モデルに替えました。2020年1月の未確認の地震1064件で試すと、45%が手直しなしで確定し、解析担当1人が32組で測った確認の時間は1件あたり平均約30秒短くなりました。解析担当全体の作業時間がどれだけ減ったかの数字は出ていません。