ENTRY

◀︎ AI NEWS TOPへ

北欧の損害保険イフ、保険金請求で特別な扱いが要る項目を生成AIで探し、担当より多く挙げたが、調べる人手が追いつかず

2026.10.21
北欧の損害保険イフ、保険金請求で特別な扱いが要る項目を生成AIで探し、担当より多く挙げたが、調べる人手が追いつかず

北欧とバルト三国で約400万人の客を持つ損害保険会社イフ(If P&C Insurance)は、保険金の請求の中から、会社が特別に扱う必要のある項目を生成AIで探す仕組みを作り、2024年9月に本番へ入れました。社員と大学の研究者が書いた論文(2025年4月24日)によると、担当とAIが同じ請求を並んで見た5か月の3743件で、項目があるとして挙げた請求の割合は、担当の1.82%に対し、AIは27.62%でした。ただし、AIが挙げた件数のうち本当に当たっていた割合は書かれていません。

この事例で分からないこと

  • 本番でAIが挙げた1034件のうち、本当に特別な扱いが要った割合
  • ほかの保険の種類やそのあとの時期でも同じになるか(77ある種類のうち1つで、5か月だけの結果)
  • 外の人による確かめ(出典はイフの社員と大学の研究者が書いた論文だけ)

何が起きたか

イフは1年に140万件を超える保険金の請求を受けます。請求の中には、会社が特別に扱う必要のある項目が含まれていることがあります。項目の中身は守秘のため論文に書かれていません。

これまでは、請求を受ける担当がその項目を見つけて報告していました。77ある保険の種類ごとにやり方が少しずつ違い、見つけるには専門の知識が要るため、担当を育てるのが難しい仕事でした。会社の調べでは、担当は本当にある項目の70%しか見つけておらず、30%を見落としていました。

そこで、1つの保険の種類で、請求の説明文やメモを生成AIに読ませて項目を探す仕組みを作りました。2024年1月に始め、4月に最初の版ができ、9月25日に本番へ入れました。作ったのは、データの専門家や法務、個人情報の担当など12人です。

  • 使ったモデル: GPT-4o。考える手順を書かせる指示と、例をいくつか見せる指示を組み合わせました
  • 個人情報: 名前などは伏せてからAIに渡し、AIはスウェーデンにあるデータセンターで動かしました
  • 言葉: フィンランド語のまま読ませる版と、英語に訳してから読ませる版を並べて動かしました

試験と本番の結果

まず、調べる担当が答えを付けた試験用のデータで、5つの版を比べました。見落としを減らすことを重んじ、本当にある項目のうち何割を見つけたか(再現率)で測りました。目標は会社の調べで出ていた人の担当の70%に、少なくとも届くことでした。

🧪 版 英語の版の再現率 フィンランド語の版の再現率
1版目 67% 67%
5版目 81% 69%

出典:論文の表1。人の担当の70%を同じ試験用のデータで測ったかは、書かれていません。

本番では、担当がそれまでどおり仕事をし、同じ請求をAIも読みました。5か月の3743件の請求で比べると、次のとおりです。

📢 公表されている説明 ⚠️ こちらで確認できていないこと
担当が挙げたのは68件(1.82%)、AIが挙げたのは1034件(27.62%) AIの1034件のうち、本当に特別な扱いが要った割合
調査に回ったのは、担当の分から21件、AIの分から23件 調べる人を増やしたあと、調査がどれだけ増えたか。
担当の時間や保険金の支払いがどれだけ変わったか
調査に回った26件のうち、AIだけが見つけたのが5件、担当だけが見つけたのが3件 本番での見落としの割合(試験の再現率81%が本番でも同じか)
会社はほかの保険の種類にも広げる方向 ほかの種類での結果と、5か月のあとの数字
論文はイフの社員と大学の研究者が書いた 外の人による確かめ

凡例:📢=当事者が公表している説明 ⚠️=出典に書かれておらず、こちらで確認できていない点
出典:Khayatbashi ほか「AI-Enhanced Business Process Automation: A Case Study in the Insurance Domain Using Object-Centric Process Mining」(arXiv、2025年4月24日)

AIが挙げた件数は担当の68件に対して1034件でしたが、調査に回った件数は21件と23件で、ほとんど変わりませんでした。論文によると、調べる担当は人数が足りず、挙がった項目をすべて調べるのではなく、大事なものを選んで調べています。会社は調べる担当を増やす方向で動いています。

誰に関係するか

自動車の整備工場や板金工場で、保険会社に出す修理の見積もりや作業の記録から、保険の対象になる部品や作業の書きもれを確かめている事務の担当にも使えます。作業記録の文章から、保険の対象になる作業や部品をAIに挙げさせます。まず、書きもれをどれだけ減らすかを目標に決めます。人が答えを付けた記録を100件ほど用意し、今の担当が何割を見つけているかを先に数えて、AIがそれを超えるかで判断します。AIが挙げる件数が増えると、確かめる人の手が足りなくなるので、確かめる順番も先に決めておきます。

まとめ

イフは、保険金の請求から特別な扱いが要る項目を生成AIで探す仕組みを本番に入れ、5か月の3743件で、AIは担当の68件に対して1034件を挙げました。試験用のデータでは、AIは英語の版で81%を見つけ、会社が前に調べた担当の70%を上回りました。調査に回った件数は、調べる担当が足りず、担当の分とAIの分でほとんど変わりませんでした。AIが挙げた件数のうち当たっていた割合は出ておらず、1つの保険の種類で5か月だけの結果です。

参考文献

  • Shahrzad Khayatbashi ほか「AI-Enhanced Business Process Automation: A Case Study in the Insurance Domain Using Object-Centric Process Mining」arXiv:2504.17295、2025-04-24、https://arxiv.org/abs/2504.17295 、確認日 2026-10-21

Tags

タグ一覧へ ▶︎

Kamone
著者 Kamone

30歳で学者志望からITエンジニアに転身。通信・金融業界におけるインフラ領域を中心に、オンプレミスからクラウドまで幅広く経験。AWS学習コミュニティでは公認メンターとして教材制作や講師を務める。現在はリツアンSTCにて事業推進に携わり、AI活用とエンジニア支援の高度化に取り組んでいる。

Kamone
著者 Kamone

株式会社リツアンSTC社員。

1984年 東京都中野区生まれ。

大学中退後、工場や警備員などを経て、何もスキルが身についていないことに危機感を覚える。
2014年 何か手に職をつけなければと思い、電子専門学校からエンジニアになった弟を見て「コイツにできるなら俺もできる」と安易な考えで未経験からIT業界に飛び込む。
そこは「まともな案件に入れなければ営業としてこき使われるか中国に送られるらしい」と恐ろしい噂が飛び交う会社だった。
「とんでもないところに来てしまった…」と戦慄するも、運よく大手新聞社系のインフラチームから声がかかり、エンジニアとしてのスタートを切る。

その後、SESを転々としながら通信・金融業界のオンプレ・クラウド案件を中心にインフラエンジニアとして経験を積む。

2021年 AWS学習サービス「Cloudtech」に参加し、公認メンターとして書籍出版プロジェクトや教材制作・講師などのコミュニティ・サービス運営に関わる。

2023年 ゆとりーマンのYoutube動画で新興SESの闇とリツアンの存在を知り、転職。(当時所属していたSES企業が動画で紹介されていた特徴に当てはまっていて愕然)
その後、CloudTechとリツアンの橋渡し役を担い、合同プロジェクト「テラコヤテック」の運営に関わる。
2025年 リツアンの「エンジニアに一円でも高い報酬を」「会社は社員に使われるためにある」「出入り自由」といったスタンスに共鳴。エンジニアから転向し、リツアンの事業推進に参画。
現在に至る。

他人の文体を真似たり、他人が書いた文章を手直しするのが得意、という若干嫌な気持ちにさせる特技を持つ。
AI活用を鋭意研究中。
(リツアンいいとこ一度はおいで。)

今すぐわかる。報酬シミュレーション