北欧とバルト三国で約400万人の客を持つ損害保険会社イフ(If P&C Insurance)は、保険金の請求の中から、会社が特別に扱う必要のある項目を生成AIで探す仕組みを作り、2024年9月に本番へ入れました。社員と大学の研究者が書いた論文(2025年4月24日)によると、担当とAIが同じ請求を並んで見た5か月の3743件で、項目があるとして挙げた請求の割合は、担当の1.82%に対し、AIは27.62%でした。ただし、AIが挙げた件数のうち本当に当たっていた割合は書かれていません。
この事例で分からないこと
イフは1年に140万件を超える保険金の請求を受けます。請求の中には、会社が特別に扱う必要のある項目が含まれていることがあります。項目の中身は守秘のため論文に書かれていません。
これまでは、請求を受ける担当がその項目を見つけて報告していました。77ある保険の種類ごとにやり方が少しずつ違い、見つけるには専門の知識が要るため、担当を育てるのが難しい仕事でした。会社の調べでは、担当は本当にある項目の70%しか見つけておらず、30%を見落としていました。
そこで、1つの保険の種類で、請求の説明文やメモを生成AIに読ませて項目を探す仕組みを作りました。2024年1月に始め、4月に最初の版ができ、9月25日に本番へ入れました。作ったのは、データの専門家や法務、個人情報の担当など12人です。
まず、調べる担当が答えを付けた試験用のデータで、5つの版を比べました。見落としを減らすことを重んじ、本当にある項目のうち何割を見つけたか(再現率)で測りました。目標は会社の調べで出ていた人の担当の70%に、少なくとも届くことでした。
| 🧪 版 | 英語の版の再現率 | フィンランド語の版の再現率 |
|---|---|---|
| 1版目 | 67% | 67% |
| 5版目 | 81% | 69% |
出典:論文の表1。人の担当の70%を同じ試験用のデータで測ったかは、書かれていません。
本番では、担当がそれまでどおり仕事をし、同じ請求をAIも読みました。5か月の3743件の請求で比べると、次のとおりです。
| 📢 公表されている説明 | ⚠️ こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 担当が挙げたのは68件(1.82%)、AIが挙げたのは1034件(27.62%) | AIの1034件のうち、本当に特別な扱いが要った割合 |
| 調査に回ったのは、担当の分から21件、AIの分から23件 | 調べる人を増やしたあと、調査がどれだけ増えたか。 担当の時間や保険金の支払いがどれだけ変わったか |
| 調査に回った26件のうち、AIだけが見つけたのが5件、担当だけが見つけたのが3件 | 本番での見落としの割合(試験の再現率81%が本番でも同じか) |
| 会社はほかの保険の種類にも広げる方向 | ほかの種類での結果と、5か月のあとの数字 |
| 論文はイフの社員と大学の研究者が書いた | 外の人による確かめ |
凡例:📢=当事者が公表している説明 ⚠️=出典に書かれておらず、こちらで確認できていない点
出典:Khayatbashi ほか「AI-Enhanced Business Process Automation: A Case Study in the Insurance Domain Using Object-Centric Process Mining」(arXiv、2025年4月24日)
AIが挙げた件数は担当の68件に対して1034件でしたが、調査に回った件数は21件と23件で、ほとんど変わりませんでした。論文によると、調べる担当は人数が足りず、挙がった項目をすべて調べるのではなく、大事なものを選んで調べています。会社は調べる担当を増やす方向で動いています。
自動車の整備工場や板金工場で、保険会社に出す修理の見積もりや作業の記録から、保険の対象になる部品や作業の書きもれを確かめている事務の担当にも使えます。作業記録の文章から、保険の対象になる作業や部品をAIに挙げさせます。まず、書きもれをどれだけ減らすかを目標に決めます。人が答えを付けた記録を100件ほど用意し、今の担当が何割を見つけているかを先に数えて、AIがそれを超えるかで判断します。AIが挙げる件数が増えると、確かめる人の手が足りなくなるので、確かめる順番も先に決めておきます。
イフは、保険金の請求から特別な扱いが要る項目を生成AIで探す仕組みを本番に入れ、5か月の3743件で、AIは担当の68件に対して1034件を挙げました。試験用のデータでは、AIは英語の版で81%を見つけ、会社が前に調べた担当の70%を上回りました。調査に回った件数は、調べる担当が足りず、担当の分とAIの分でほとんど変わりませんでした。AIが挙げた件数のうち当たっていた割合は出ておらず、1つの保険の種類で5か月だけの結果です。