東京証券取引所などを運営する日本取引所グループ(JPX)と日立製作所は2026年10月20日、JPXの取引システムの監視の仕事で、生成AIを10月から本格的に使い始めたと発表しました。システムが警報(アラート)を出したとき、どの手順で対処するかを、これまでは慣れた担当が経験で選んでいました。いまは生成AIが、過去の事例をもとに手順の候補を絞って示し、オペレーターが最初の対応を決めます。本番を想定した試験では、約1,600件の場面のうち97%以上で、AIが正しい手順を候補に絞り込みました。この数字は人と比べたものではなく、本番で対応の時間がどう変わったかは、まだ公表されていません。
この記事はJPXと日立の共同の発表(10月20日)と、日立が2024年4月24日に出した製品の発表にもとづきます。
JPXは株式やデリバティブの取引、相場の情報の配信、売買の審査、清算と決済などを担う40以上のシステムを、24時間365日、1か所でまとめて見張っています。障害が起きたときは、影響の範囲と対処の方針を早く正しく決めなければなりません。その判断は、長年ためてきた運用の知恵に頼っています。一方でIT人材が足りなくなり、慣れた担当のやり方をどう引き継ぐかが課題になっていました。
使ったのは、日立の運用管理のサービス「JP1 Cloud Service」の生成AIアシスタントです。日立は20年以上、JP1の製品でJPXのシステムの運用を支えてきました。両社は2022年から、これからの運用をどう良くするかを一緒に考えてきました。
発表の図によると、流れは次の3段です。
1. 取引のシステムの1つで警報が出ます。2. 生成AIアシスタントが、JPXがためてきた1万件以上の障害の事例と対処手順から、合いそうな手順の候補を絞って画面に出し、判断の根拠もあわせて示します。3. オペレーターが候補と根拠を見て、最初の対応を決めます。
日立が2024年に出した製品の発表では、オペレーターが画面で警報を選ぶと、アシスタントが警報に合わせた質問の文を自動で作ります。オペレーターはその文を確かめて、直すこともできます。答えには、根拠になる運用の手順書や公開の技術情報へのリンクが付く仕組みです。JPXでの細かい画面の動きは今回の発表には書かれていません。
試験の段階で両社は、根拠を示す機能のほか、AIが間違えやすい項目のための指示の補助や、候補の絞り込みの精度を上げる機能を作り、調整を重ねました。その成果は JP1 の製品の機能に入れています。両社は、これでAIがもっともらしい誤りを答えること(ハルシネーション)を抑えたとしています。
| 項目 | 発表に書かれていること |
|---|---|
| 📚 AIが参照したもの | JPXが対象のシステムでためてきた、1万件以上の障害の事例と対処手順 |
| 🧪 試したもの | 警報が出たことを想定した、約1,600件の試験用の場面(本番を想定した試験) |
| ✅ 数えたもの | AIが正しい対処手順を候補に絞り込めた場面の割合。97%以上 |
| ⚖️ 比べた相手 | 書かれていない。慣れた担当が選んだ場合や、AIなしで手順書を引いた場合の数字は出ていない |
| ⏱️ 本番での変化 | 書かれていない。対応の時間や誤りの数の変化は公表されていない |
出どころ:JPXと日立の発表(2026年10月20日)。「判断精度」の定義は発表の注による。
発表からは、正しい手順が候補の1番目に来たのか、いくつかの候補の中に入っていたのかが分かりません。候補をいくつ示すのかも書かれていません。
日立は2024年4月24日、この生成AIアシスタントを売り出すと発表し、社内で先に試した結果も載せました。いくつかの手順書をもとに答えさせた場合(質問を何回かくり返した場合を含む)には、9割以上の警報で正しい対処の方法を答えました。日立グループの監視の仕事では、最初の判断にかかる時間が約3分の2になったとしています。何件で試したか、何と比べて約3分の2になったかは、その発表からは分かりません。
これは日立の社内の現場の数字で、JPXの数字ではありません。2024年の発表では、アシスタントがつなげる生成AIは、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」でした。JPXでどの生成AIを使っているかは、今回の発表には書かれていません。
| 📢 公表されている説明 | ⚠️ こちらで確認できていないこと |
|---|---|
| 約1,600件の試験用の場面のうち97%以上で、正しい手順を候補に絞り込んだJPXと日立の発表 | ⚠️ 人の判断と比べた数字。外部が同じ場面で確かめた結果 |
| オペレーターが早く正しく最初の対応をとれるようになるJPXと日立の発表 | ⚠️ 本番で、対応の時間や誤りの数がどれだけ変わったか |
| 着任して間もないオペレーターでも、安定した品質で担えるようになるJPXと日立の発表。これから目指すことの書き方 | ⚠️ 経験の浅い人と慣れた人で、結果を分けて測った数字 |
| 試験で、AIがもっともらしい誤りを答えることを抑えたJPXと日立の発表 | ⚠️ 正しい候補を絞り込めなかった場面で、AIがどんな誤りをしたか。使っている生成AIの種類 |
凡例:📢=当事者が公表している説明 ⚠️=出典に書かれておらず、こちらで確認できていない点
説明は、JPXと日立の発表(2026年10月20日)による。
両社は、AIを使う範囲を少しずつ広げるとしています。今は人が受け持っている、障害が起きたときの最初の切り分けや、そのあとの対処に、AIエージェント(自分で手順を進めるAI)を使うことも進める予定です。日立は、たくさんの警報を自動で振り分けることや、障害の前ぶれを見つけることも、これから目指すことに挙げています。
設備やシステムの警報に、手順書を見ながら交代で対応している会社に関係します。
たとえば、従業員150人ほどの食品工場で、夜勤の保全担当が包装の機械や冷凍庫の警報に対応しているとします。どの警報で何をすればよいかが、ベテランの頭の中と分厚い手順書に分かれていることがあります。最初の一歩は、過去の警報と、そのとき実際にとった手順を組にして記録から集めることです。そのうち100件ほどを試験用に取っておき、AIが正しい手順を候補に入れた割合を数えてから使い始めます。決めるのは担当者のままにし、AIの答えには手順書のどこを見たかを必ず付けさせます。
JPXと日立は本番の前に、約1,600件の試験用の場面でAIを試し、97%以上で正しい手順を候補に絞り込めることを確かめました。この数字は人と比べたものではありません。使い始めたあとも、AIが出すのは候補と根拠までで、最初の対応を決めるのはオペレーターです。