カナダ北極圏で海鳥のケワタガモを見守るアークティック・アイダー協会(Arctic Eider Society)は、空から撮った群れの写真で鳥を数える作業に、AIの下書きを入れました。AIが鳥の位置とオス・メスを先に示し、人は区域ごとに直します。直した分で、AIをその場で学ばせ直す仕組みです。協会とウォータールー大学(University of Waterloo)などの論文によると、5人が参加した試験で、写真1枚の印付けにかかった時間は手作業の平均約117分から約15分になりました。
ケワタガモは、カナダのハドソン湾に住むイヌイットの人々と深く結びついた鳥です。羽毛は、冬の寒さから身を守るために使われてきました。海氷の変化や、水力発電の施設による海流の変化が、鳥と地域の暮らしに影響しています。オスとメスの割合など群れの成り立ちは、まわりの自然の変化を知る手がかりになります。
協会は、ハドソン湾のベルチャー諸島(Belcher Islands)で、群れを飛行機やドローンから撮ってきました。2002年、2008年、2021年の写真が750枚あります。オスは白く、メスは茶色なので、写真で見分けられます。
ただ、1羽は写真の上で縦横10画素ほどしかありません。群れは密集していて、白いオスは氷のかけらと見まちがえやすいです。先住民の実習生が6枚の写真に手で印を付けるのに、4か月かかりました。印の数は8339羽分です。試験に使った10枚には、1枚に352羽から1万1099羽が写っていました。
ウォータールー大学などの研究者は、写真の中の目当てのものを囲んで示すAI「オープンワイルドライフ(OpenWildlife)」を使いました。野生動物の空撮写真を集めた15のデータ集、計2万7684枚で事前に学ばせてあります。「オスのケワタガモ」のように、探すものを言葉で指定できます。これを協会の6枚の写真で追加学習させ、無料の印付けソフト「ラベルスタジオ(Label Studio)」に組み込みました。
使い方は次のとおりです。
写真全部を直し終えるのを待たずに、区域を直すたびにAIが良くなります。確からしさの低い印を外すつまみ、その場で数を見る表示、表計算ソフトへの書き出しも付けました。ソフト一式は1つにまとめてあり、ほかの団体の機械にも入れられます。この仕組みは協会で使われています。ただ、実際の調査で何回、何枚の写真に使ったかは、論文に書かれていません。
時間の比べは、5人が参加した小さな試験から出た数字です。参加者は使い方の説明を受けたあと、4か月にわたって写真に印を付けました。
| 📊 写真1枚の印付けにかかった時間(平均) | 手作業 | AIの下書きを人が直す |
|---|---|---|
| 時間 | 117.08分 | 14.70分 |
| ばらつき | ±111.29分 | ±9.73分 |
出典:論文の表2。減った割合は87.5%です。
正しさは、人が全部数えた10枚(約3万5000羽)を正解にして比べました。この正解を作るのに、数日かかりました。
| 📊 人が全部数えた10枚との比べ | 事前に学ばせただけ | 協会の6枚で追加学習 | 人が直した区域で学ばせ直し |
|---|---|---|---|
| 鳥を見つけた割合 | 0% | 75.6% | 77.6% |
| 付けた印のうち正しかった割合 | 0% | 67.1% | 66.0% |
| 数の誤差 | 98.1% | 29.2% | 22.2% |
出典:論文の表1。確からしさ0.3以上の印で数えました。
学ばせる前のモデルどうしで比べると、正しく見つけた度合い(mAP50)は、オープンワイルドライフが0.10、ほかの検出の方式は0.00〜0.04でした。協会の写真で追加学習すると0.34になりました。
参加者は、AIの下書きについて「少し直すだけでよいほど正確」と答えています。
| 📢 論文の説明 | ⚠️ 書かれていないこと |
|---|---|
| 1枚の印付けの時間が87.5%減った | 手作業の時間を、だれが、どの写真で測ったか。手作業のばらつきは±111分と大きい |
| 5人の試験で時間が減った | もっと多くの人や、ほかの年の写真でも同じになるか |
| AIの下書きは鳥の77.6%を見つけた | 人が直したあとの、最終的な数の正しさ |
| 協会で使われている | 実際の調査で、何回、何枚の写真に使ったか |
| 開発した大学と協会の論文 | 外の人による確かめ |
凡例:📢=当事者が公表している説明 ⚠️=出典に書かれておらず、こちらで確認できていない点
出典:論文(Hsiao ほか、2026)
工場の検査写真に不良の印を付けて、画像AIの学習用データを作っている現場なら、同じ流れを試せます。最初から全部に印を付けず、数枚の見本で学ばせたAIに下書きを出させ、人は区域ごとに直します。直した分ですぐ学ばせ直せば、印を付けるほどAIの下書きが良くなります。
建設現場の資材置き場で鉄筋や鋼管を数える仕事や、養殖場で稚魚を数える仕事も、AIの下書きと人の手直しに分けられます。どれも、小さくて似たものが密集して写る点が、ケワタガモの写真と同じです。始める前に、手で印を付けたときの1枚の時間と、人が全部数えた正解の写真を何枚か用意しておくと、効果を比べられます。
AIの下書きは、正解にした10枚と比べると約2割の鳥を見落とし、数の誤差も2割ほどありました。この仕組みは、下書きを人が直すことを前提にしています。人が直したあとの数の正しさと、実際の調査での使われ方は、論文に出ていません。