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国立情報学研究所、国産の医療AIに約3万例の症例の知識を調べさせ、鑑別診断の試験(3点満点)で平均点が1.74から1.97に

2026.10.27
国立情報学研究所、国産の医療AIに約3万例の症例の知識を調べさせ、鑑別診断の試験(3点満点)で平均点が1.74から1.97に

国立情報学研究所(NII)を中心とする研究チームは2026年10月26日、国産の医療向けAIのモデル「SIP-jmed-llm-4」に、約3万例の症例をもとにした知識を調べさせる仕組みを発表しました。症例から考えられる病気を挙げる試験(3点満点)で、同じモデルの平均点は調べないときの1.74点から、調べたときの1.97点に上がりました。この試験は、問題と正解をAIが作り、採点もAIがしています。医師は中身を確かめていません。

この記事はNIIのニュースリリース(10月26日)と、研究チームが公開している試験の説明ページにもとづきます。

どんな取り組みか

国の研究計画「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の医療分野の研究です。NIIのほか、自治医科大学と、医療向けのソフトを作る会社のプレシジョンが加わっています。研究の責任者はNIIの小林和馬特任准教授です。

自治医科大学の永井良三学長は長年かけて、約3万例の症例について、病気と症状・検査の所見の関係を図にまとめてきました。この図を「疾患因果ダイアグラム」と呼びます。約5万語の医学用語の辞書もいっしょに作ってきました。

チームは、この図をAIが調べられる形にしました。これが「症例知識グラフ」です。

何を作ったか

SIP-jmed-llm-4 は、NIIが作った日本語のモデル「LLM-jp-4」をもとに、日本語の医療の文章で追加の学習をしたモデルです。部品の数(パラメータ)は約332億です。外部の道具を使う機能があります。

この機能を使い、モデルが症例知識グラフを調べながら答える仕組みを作りました。症例の情報を入れると、モデルは関係のある病気と症状のつながりや、いっしょに出やすい所見を取り出し、それをもとに答えを書きます。

チームはこの仕組みを、医師向けのウェブの画面にまとめました。画面は3つに分かれ、左に関連する症例の一覧、中央に知識グラフ、右に質問とAIの答えが並びます。NIIは2026年度内に、主に医師を対象として、限られた範囲で試しに公開することを目指しています。

鑑別診断の試験の結果

鑑別診断は症状や検査の結果から考えられる病気をいくつか挙げ、絞り込んでいく作業です。チームはこれを測る日本語の試験「PMC-Patients-JA-DDx」を作り、公開しています。

試験の症例は海外の医学論文のデータベース「パブメド・セントラル(PubMed Central)」に載った症例報告から作りました。AIで日本語に訳し、別のAIで問題と正解を作っています。モデルが挙げた病気は、AIが0〜3点で採点します。3点は正解と同じ病気、2点はほぼ同じ病気(正解の一部の型や、病気の場所だけが違うもの)です。1点は同じ病気の仲間までは届いたもの、0点は、正解の病気がないか、大まかな分類しか書かれていないものです。

モデル(使い方) 平均点(3点満点)
🩺 SIP-jmed-llm-4(症例の知識を調べる) 1.97点
🩺 SIP-jmed-llm-4(症例の知識を調べない) 1.74点
gpt-oss-120b 1.93点
gpt-oss-20b 1.67点
llm-jp-4-33b-thinkingSIP-jmed-llm-4 と同じ LLM-jp-4 の仲間 1.58点
Qwen3-32B 1.57点
Qwen3-30B-A3B-Thinking-2507 1.47点
Qwen3-30B-A3B-Instruct-2507 1.40点

数字はNIIのニュースリリース(2026年10月26日、表1)による。🩺の2行以外の6つは、試験の説明ページに載った数字と同じ(2026年9月に1,498問を、外部の道具を使わずに解かせた結果)。🩺の2行を何問で、どの採点役で測ったかは、リリースに書かれていない。

症例知識グラフを調べた SIP-jmed-llm-4 は1.97点で、調べない同じモデルより0.23点高い結果でした。ほかの6つのモデルとは、同じ条件で測ったかが分からないため、点数の上下は比べられません。

医師国家試験の点数

チームは医師国家試験の問題で作った試験「JMedQA」の結果も出しています。2018年から2026年までの3,581問です。リリースによると、SIP-jmed-llm-4 は外部の道具を使わずに、90%を超える問題に正しく答えました。

チームが公開している評価表では、開発途中の版の正答率が90.7%です。同じ表には、医療向けではない DeepSeek-V4.1-Flash の95.1%など、これより高いモデルも載っています。リリースは、今回比べた日本語に特化したモデルの中で、SIP-jmed-llm-4 の正答率は332億パラメータ以下で一番高かったと説明しています。

まだ確かめられていないこと

📢 公表されている説明 ⚠️ こちらで確認できていないこと
症例の知識を調べると、鑑別診断の試験の平均点が1.74点から1.97点に上がったNIIの説明 ⚠️ 問題と正解が医学的に正しいか(AIが作り、医師は確かめていないと試験の説明ページに明記)
⚠️ 問題の中身に、もとの症例と違うところが残っていないか。説明ページは、年齢・性別・数字以外の食い違いは見つけきれていないと書いている
⚠️ AIの採点が、医師が採点した場合と合うか(説明ページに記載なし)
⚠️ 🩺の2行を、ほかのモデルと同じ問題と採点役で測ったか(リリースに記載なし)
医師国家試験の問題で、外部の道具なしに90%を超えたNIIの説明 ⚠️ リリースの「90%超」と、公開されている評価表の90.7%(開発途中の版)が、同じ版の数字か(リリースの図2は「SIP開発版」とだけ書いている)
医師の情報集めや鑑別診断を助けるNIIの説明 ⚠️ 医師が実際に使った結果(まだない。2026年度内の試験公開で確かめる予定)
⚠️ モデルの重みを公開するか(リリースに記載なし。評価表の注記では開発途中の版の重みは非公開)
試験の症例は、公開された海外の症例報告から作った試験の説明ページ ⚠️ もとの症例報告を、モデルが学習で読んでいたかどうか。説明ページは、その可能性があると書いている

凡例:📢=当事者が公表している説明 ⚠️=出典に書かれておらず、またはこちらで確認できていない点
説明は、NIIのニュースリリース(2026年10月26日)と、研究チームが公開している試験の説明ページ(Hugging Face)による。

NIIは、今回の結果は研究用の試験による評価で、実際の診療での安全さや役立ち方を保証するものではないと書いています。仕組みは研究段階の試作品で、医師の診断や判断の代わりにするためのものではありません。

誰に関係するか

社内の過去の記録をAIに調べさせたい人に関係します。たとえば、設備の故障の記録を「どの部品が壊れると、どんな音や数値が出るか」でまとめている工場の保全担当、問い合わせの原因と症状を記録している社内のヘルプデスクの担当者、車の不具合の記録をためている整備士です。

今回の発表は、同じモデルで「調べる」と「調べない」を並べて点数を出しています。社内の記録を調べる仕組みを試すときも、同じ質問を両方の形で解かせれば、仕組みを足した分の差が分かります。チームの試験は問題と正解をAIが作りましたが、自分たちで試すなら、記録をよく知る人に正しい答えを確かめてもらえます。

まとめ

今回の数字で言えるのは、同じモデルが症例知識グラフを調べると、AIが作った試験で0.23点上がったことまでです。ほかのモデルより上か下か、医師の診断の助けになるかは、この試験からはまだ分かりません。

参考文献

  • 国産医療LLMと3万例規模の疾患因果ダイアグラムを統合した医療AIエージェントを開発(国立情報学研究所、ニュースリリース、2026-10-26)https://www.nii.ac.jp/news/release/2026/1026.html
  • 同リリースPDF https://www.nii.ac.jp/news/upload/nii_newsrelease_20261026.pdf
  • SIP-med-LLM/PMC-Patients-JA-DDx(Hugging Face、試験の説明ページ)https://huggingface.co/datasets/SIP-med-LLM/PMC-Patients-JA-DDx
  • SIP-med-LLM/JMedQA(Hugging Face、試験の説明ページ、評価表は2026-10-05時点)https://huggingface.co/datasets/SIP-med-LLM/JMedQA
  • SIP3 統合型ヘルスケアの構築 B-6(研究テーマのサイト)https://sites.google.com/nii.ac.jp/sip3b-6/

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Kamone
著者 Kamone

30歳で学者志望からITエンジニアに転身。通信・金融業界におけるインフラ領域を中心に、オンプレミスからクラウドまで幅広く経験。AWS学習コミュニティでは公認メンターとして教材制作や講師を務める。現在はリツアンSTCにて事業推進に携わり、AI活用とエンジニア支援の高度化に取り組んでいる。

Kamone
著者 Kamone

株式会社リツアンSTC社員。

1984年 東京都中野区生まれ。

大学中退後、工場や警備員などを経て、何もスキルが身についていないことに危機感を覚える。
2014年 何か手に職をつけなければと思い、電子専門学校からエンジニアになった弟を見て「コイツにできるなら俺もできる」と安易な考えで未経験からIT業界に飛び込む。
そこは「まともな案件に入れなければ営業としてこき使われるか中国に送られるらしい」と恐ろしい噂が飛び交う会社だった。
「とんでもないところに来てしまった…」と戦慄するも、運よく大手新聞社系のインフラチームから声がかかり、エンジニアとしてのスタートを切る。

その後、SESを転々としながら通信・金融業界のオンプレ・クラウド案件を中心にインフラエンジニアとして経験を積む。

2021年 AWS学習サービス「Cloudtech」に参加し、公認メンターとして書籍出版プロジェクトや教材制作・講師などのコミュニティ・サービス運営に関わる。

2023年 ゆとりーマンのYoutube動画で新興SESの闇とリツアンの存在を知り、転職。(当時所属していたSES企業が動画で紹介されていた特徴に当てはまっていて愕然)
その後、CloudTechとリツアンの橋渡し役を担い、合同プロジェクト「テラコヤテック」の運営に関わる。
2025年 リツアンの「エンジニアに一円でも高い報酬を」「会社は社員に使われるためにある」「出入り自由」といったスタンスに共鳴。エンジニアから転向し、リツアンの事業推進に参画。
現在に至る。

他人の文体を真似たり、他人が書いた文章を手直しするのが得意、という若干嫌な気持ちにさせる特技を持つ。
AI活用を鋭意研究中。
(リツアンいいとこ一度はおいで。)

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