ENTRY

◀︎ AI NEWS TOPへ

オランダがん研究所、初診の前に読む紹介の書類をAIで要約し、医師ら9人の負担感の点数が使う前より約3割下がった

2026.10.30
オランダがん研究所、初診の前に読む紹介の書類をAIで要約し、医師ら9人の負担感の点数が使う前より約3割下がった

オランダのがん専門の病院、オランダがん研究所は、初診の前に読む紹介の書類をAIに要約させる道具を、頭と首のがんの科で使いました。医師ら9人が33回の初診の準備で使い、負担感の点数は、同じ人の使う前の点数より28.9%下がりました。2026年10月17日に医学の専門誌で公開された、査読済みの論文の結果です。ただ、くじ引きで分けずに1つの科の少人数で試したもので、準備の時間がどれだけ短くなったかは、本人の見積もりです。

何が起きたか

オランダがん研究所(Antoni van Leeuwenhoek – Netherlands Cancer Institute)は、アムステルダムにあるがん専門の病院です。頭と首のがんの科には、ほかの病院から患者が紹介されてきます。

初診の前に、医師や診療看護師は、紹介状、病理の報告、画像の報告、血液などの検査の報告を読みます。書類は多く、形もばらばらです。病院はアムステルダムのAIの会社カイコ(kaiko.ai)と、初診の準備を助ける道具を作りました。

試験は2025年4月14日から6月2日まで、この科で行いました。参加したのは9人で、6人は初診の準備をする医師や診療看護師、3人はそれを指導する上の医師です。

AIの使い方

AIは、メタ(Meta)の言語モデル「Llama 3.1 70B Instruct」を、オランダ語の病院の記録から情報を抜き出す練習のデータで調整したものです。試験の前に版を固め、試験の間はモデルも指示も変えていません。別の患者の記録で性能を確かめてから、試験に出しました。

AIは、患者の紹介の書類をまとめて読み、決まった4つの項目で要約を作ります。紹介の内容、患者の危険の要因、検査の結果、患者の病状の4つです。要約は電子カルテの中に出ます。

要約の項目には、それぞれ元の書類とページが付きます。医師は元の書類で中身を確かめられます。書類から言えないことは空欄で返し、推し量って埋めません。書類どうしで食い違うときは、AIはどちらかに決めず、それぞれの出どころを残します。

道具は診断や治療の助言はしません。元の記録を確かめ、治療を決めるのは医師です。道具は欧州の医療機器の認証(CEマーク)を受けていません。

発表された数字

負担感の点数は、同じ人が道具を使う前に答えた点数と比べました。ほかの数字は、道具を使った初診での本人の答えや報告で、使わない初診との比べはありません。

📊 項目 数字
負担感の点数(NASA-TLX、0〜100) 使う前の平均42.1 → 使った後29.9(28.9%減)
準備の時間が短くなったと答えた初診 33回のうち25回(75.8%)
短くなったと本人が見積もった時間 1件あたり平均3.26分(31回)
準備がうまくいった初診 33回のうち28回(84.9%)
要約が準備に十分だった初診 33回のうち21回(63.6%)
元の書類と合わない点の報告 4件

出典:npj Digital Medicine の論文(2026-10-17、査読済み)。くじ引きのない、同じ人の使う前と後の比べです

負担感の点数は、どれだけ頭を使ったか、どれだけいらいらしたかなどを本人が答える、決まった質問の点数です。下がった幅が一番大きかったのは、いらいらの項目(50.7%減)でした。9人のうち8人で点数が下がりました。

元の書類と合わない点の4件のうち2件は、書類にアレルギーの情報がないのに「アレルギーなし」と出たものです。AIの要約では「情報なし」でしたが、電子カルテに移す途中で書き換わっていました。論文によると、試験の後の版では「不明」と出すように直しました。

公表された説明と、確かめられていないこと

📢 公表されている説明 ⚠️ 確認できていない点
負担感の点数が28.9%下がった くじ引きで分けた比べでの結果
1件あたり平均3.26分短くなった 時計で測った時間。使う前の時間
要約が準備に十分だったのは63.6% 足りなかった3分の1あまりで何が欠けたか
72回の対象のうち33回を分析した 分析に入らなかった39回の中身
試験の後に「不明」と出すように直した 直した後の版での誤りの数
1つの科の結果 ほかの科や病院で同じ結果になるか

凡例:📢=論文の書き手が公表している説明 ⚠️=出典に書かれておらず、こちらで確認できていない点
出典:npj Digital Medicine の論文(2026-10-17)。書き手のうち3人はカイコの社員で、論文はこれを利害の関係として書いています。研究の資金は、オランダの健康の産業を後押しする国の仕組み、ヘルス・ホランド(Health~Holland)から出ています

論文は、人数が足りないことを自ら書いています。負担感の点数が10点下がる効果が本当にあっても、この人数で差を見つけられる見込みは約36%という計算です。使い続けた人だけが残る偏りや、本人の思い込みや思い出し違いによる偏りもありえるとしています。

誰に関係するか

保険の会社で、事故や病気の書類を読んで支払いを決める査定の担当者なら、届いた書類をAIに決まった項目で要約させ、項目ごとに元の書類とページを付けさせます。支払いを決める前に、気になる項目だけ元の書類で確かめられます。

介護施設で、病院から届く書類を読んで受け入れを決める相談員なら、書類にないアレルギーや持病を「なし」ではなく「分からない」と出させ、受け入れの前に病院へ聞き直す項目にできます。

試す前に、同じ人の負担感と、時計で測った準備の時間を取っておくと、使った後と比べられます。

まとめ

論文は、人数を増やし、いくつもの病院で比べる試験が次に必要だと書いています。

参考文献

  • J. W. van Koevorden ほか「AI-supported first consultation preparation in oncology: a real-world clinical usability study」npj Digital Medicine、2026-10-17(Article in Press、査読済み)、https://doi.org/10.1038/s41746-026-03396-6 、確認日 2026-10-30

Tags

タグ一覧へ ▶︎

Kamone
著者 Kamone

30歳で学者志望からITエンジニアに転身。通信・金融業界におけるインフラ領域を中心に、オンプレミスからクラウドまで幅広く経験。AWS学習コミュニティでは公認メンターとして教材制作や講師を務める。現在はリツアンSTCにて事業推進に携わり、AI活用とエンジニア支援の高度化に取り組んでいる。

Kamone
著者 Kamone

株式会社リツアンSTC社員。

1984年 東京都中野区生まれ。

大学中退後、工場や警備員などを経て、何もスキルが身についていないことに危機感を覚える。
2014年 何か手に職をつけなければと思い、電子専門学校からエンジニアになった弟を見て「コイツにできるなら俺もできる」と安易な考えで未経験からIT業界に飛び込む。
そこは「まともな案件に入れなければ営業としてこき使われるか中国に送られるらしい」と恐ろしい噂が飛び交う会社だった。
「とんでもないところに来てしまった…」と戦慄するも、運よく大手新聞社系のインフラチームから声がかかり、エンジニアとしてのスタートを切る。

その後、SESを転々としながら通信・金融業界のオンプレ・クラウド案件を中心にインフラエンジニアとして経験を積む。

2021年 AWS学習サービス「Cloudtech」に参加し、公認メンターとして書籍出版プロジェクトや教材制作・講師などのコミュニティ・サービス運営に関わる。

2023年 ゆとりーマンのYoutube動画で新興SESの闇とリツアンの存在を知り、転職。(当時所属していたSES企業が動画で紹介されていた特徴に当てはまっていて愕然)
その後、CloudTechとリツアンの橋渡し役を担い、合同プロジェクト「テラコヤテック」の運営に関わる。
2025年 リツアンの「エンジニアに一円でも高い報酬を」「会社は社員に使われるためにある」「出入り自由」といったスタンスに共鳴。エンジニアから転向し、リツアンの事業推進に参画。
現在に至る。

他人の文体を真似たり、他人が書いた文章を手直しするのが得意、という若干嫌な気持ちにさせる特技を持つ。
AI活用を鋭意研究中。
(リツアンいいとこ一度はおいで。)

今すぐわかる。報酬シミュレーション